石積み女子が挑む、海と山の里暮らし

愛媛県の南西部に位置する西予市は、海・山・里が凝縮された自然と文化が息づくまちです。市全体が「四国西予ジオパーク」に認定され、多様な地形や景観が評価されています。

中でも宇和海に面した明浜町狩浜は、石積みで築かれた段々畑とみかん栽培で知られ、文化的景観が残る地区。この狩浜に魅せられ、令和4年9月から地域おこし協力隊として移住したのが亀井彩香さんです。現在はみかん農家に嫁ぎ、1歳の息子さんを育てながら、協力隊として4年目(うち1年は産休)を迎えています。

みかんバイトから始まった石積みとの出会い

Q.移住したきっかけを教えてください。

きっかけはこの地域での「みかんバイト」なんです。ただ、そこに行きつくまではちょっと回り道があって…。大学では海洋生物環境学科で海のことを学んでいました。卒業後、フィールドワークをしたいという思いがあったのですが、就職のときにはそういう道にはなかなかつながりませんでした。

田舎が好きだったので「田舎の役に立ちたい」という気持ちもずっとありました。なので、大学を卒業してそのまま宮崎県で広告会社に就職して、地元企業を宣伝して支える仕事を始めたんです。けど、ちょうどコロナ禍で思うように働けませんでした。時間を持て余していたこともあって、松山で大学生をしていた妹の家になんとなく転がり込みます。そこで暮らす中でいろんな人を紹介してもらって、人づてにどんどんつながっていって、気がついたら西予市でみかん収穫のバイトをしていました。

石積みとの出会いも、そのみかんバイトのときでした。滞在先が石積みの技術の継承をおこなっている「一般社団法人 石積み学校」の方と親しい農家さんで、石積みの存在を教えてもらったんです。環境にやさしいことや地域活性の鍵になりそうだという話で興味が湧き、翌4月には実際に石積みの作業に参加して学び始めていました。

ちょうどその頃に、市役所の方から地域おこし協力隊の制度を紹介されました。しかも活動のミッションが「石積み」だったんです。これはもうご縁だなと。移住前から地域の人にごはんを食べさせてもらったり、子どもたちが遊んでくれたり、本当に温かく迎えていただいて。その優しさに取り込まれるようにして、気づいたらこの地に暮らすようになっていました。もちろん「石積みで食べていけるのか」という不安はありましたが、どこかに根を下ろしたいと考えていたタイミングだったことも背中を押しました。

石積みとみかんに向き合う協力隊の日々

Q:協力隊の活動を教えてください。

協力隊としてのミッションは「石垣補修と柑橘農業」です。着任してからずっと、石積みとみかんの作業が中心でした。石積みは月1〜2回、教えていただいている師匠に付いて県内外の現場に行くこともあります。石を組み合わせて石垣を作っていく作業はパズルみたいで、限られた条件の中で攻略していくゲームのような面白さもあります。その土地にある自然の石を人の手で積み上げていくことで成り立つため、自然と人工の境界が曖昧になり、没頭すると自分自身が自然の一部になったような感覚を得られるのも魅力です。さらに、作業中には地域の方や一緒に取り組む仲間と人生などについて語り合うことも多く、コミュニケーションの場としての価値も大きいです。石積みは単なる技術の習得にとどまらず、人との関わりを通して学べることが多いことも、その魅力のひとつだと感じています。

そのほかに、明浜町狩江地区の地域おこし団体「かりとりもさくの会」の実施する修学旅行や体験プログラムの受け入れにも関わっています。子どもから大人まで様々な世代と関わる機会があり、このような田舎に居ながらも、外から来られる方々との交流があるのはうれしいことです。

Q.地域との関わりについて教えてください。

みかん農家さんのグループにも加えてもらい、収穫や選果なども経験しました。地域の人たちはいい意味でとてもお節介で、すぐごはんに呼んでくれたり、困ったときに助けてくれたり、本当に人とのつながりで支えられています。地域の人たちは、海辺のまちでありながら、農村らしい穏やかさもあり、人との距離も近いです。狩浜地区は、家が密集していて孤独を感じにくいのもいいところです。

あと、移住の決め手のひとつに地域のお祭りがあります。今までお祭りの文化がある地域に暮らしていなかったので。とくにこの地区の秋祭りは、カゴの中に人が入って暴れ回るオールドスタイルの牛鬼や、そのほかたくさんの練り(踊り)もあって特徴的で楽しいですね。また、休日は「アルティメット」というフリスビーを使ったスポーツを楽しんでいます。7人対7人でパスをつないで、相手陣地でキャッチすれば得点になる競技で、大学でもプレーしていましたが、移住してからは先輩移住者で元々プレーヤーだった方と、地元の有志の方とチームを立ち上げました。週に2回ほど、仲間と一緒に大会に向けての練習や試合をしています。子どもたちと一緒に練習することもあり、地域の内外の人とのつながりも広がりました。

石積みを地域に根付かせ、未来へつなぐ

Q.これからの活動について教えてください

目標は、石積みが再び地域に根付く仕組みをつくることです。自分ひとりでは限界があるので、ワークショップなどの体験活動を通じて担い手を増やして、継続的に修復できる体制を整えたいと思っています。自分が石積みの技術を磨くことはもちろん、ワークショップなどのイベントの企画もしていきたいです。この狩浜での取り組みをモデルに、他の地域でもその土地の魅力と組み合わせた石積みの形を提案できればと考えています。個人的には事務作業が苦手なので、そこも克服しつつ、石積みを仕事として自立できるように挑戦していきたいです。

また、協力隊の活動ではありませんが、地域に本屋が少ないため松山の本屋さんに行っています。「本屋つまみ」としてイベント本屋の活動もしているので、いつか西予市や南予地域でも本屋やイベントを企画できたらいいなと思っています。

Q.移住を考えている人にメッセージをお願いします。

もちろんいいことばかりじゃないけれど、よく考えて選んだ道なら地域の人は応援してくれると思います。移住前にその地域のことを相談できる人を見つけておくと安心ですし、人との縁が道を開いてくれると実感しています。よき移住先にであえますように!

<リンク>

かりとりもさくの会|段々畑ガイドや体験プログラム・修学旅行・民泊誘致など – 愛媛県西予市明浜町狩江地区の地域おこし団体

・亀井さんInstagram:https://www.instagram.com/tsumami_anami/
(石積み体験募集中!)