2017年から愛媛県内子町でゲストハウスを営む山内大輔さんと、
2021年秋から愛媛県西予市野村町でゲストハウスを営むシーバース玲名さん。
ともに「神奈川県から愛媛へ移住し」「地域おこし協力隊」という同じ経歴をもつ2人が、
ゲストハウスのこと、まちへの想いなどを語った。
1981年、神奈川県横浜市出身。大学を卒業後、2年間会社員をしたのち、40各国以上をめぐり、その後、四国遍路をきっかけに、2014年愛媛県内子町へ移住。地域おこし協力隊として活動。2017年、内子町でゲストハウスを開業。
1993年、神奈川県藤沢市生まれ。大学を卒業後、フェアトレードなどに取り組む団体などで働いた後、「平成30年7月豪雨」がきっかけで愛媛へ。2019年、西予市野村町へ移住し、地域おこし協力隊に。2021年、野村町でゲストハウスを開業。
山内大輔(以下、山内) :
愛媛県内子町の町並み保存地区にある築100年以上の古民家を改修して、ランチもできるカフェと、バー、ゲストハウスをしています。地域の魅力を知ってほしくて、地元の人たちとゲストが交流できるようにバーも併設したんです。地元の工芸品とか加工品とか、自分が見知ったつくり手たちの“いいもの”を紹介するイベントやスペースも設けています。
シーバース玲名(以下、シーバス):
山あいのまち、愛媛県西予市野村町の野村地域で、バーとゲストハウスを別棟で営んでいます。国際協力、エシカル、地球に優しい、人とのつながりとか自分の関心を集めたいろんなキーワードがあって、それがゲストハウスのコンセプトになっています。ゲストハウスは自己表現に近くって、自分の好きな地域をみんなに知ってもらうのと、自分自身を知ってもらうのと、その掛け算のような空間です。
山内:シーバースのゲストハウスは、人が集まる場所をちゃんとイメージできているなと感じます。寝る場所と遊ぶ場所の住み分けがうまくできていて、女性的な感性も入っているし、デザイン的にもカッコいい。自分の理想を目指して、きちんと計画を立てて、きちんとつくったというのが伝わってきますね。
シーバース:ありがとうございます!!ゲストハウスを始める前にいろんなゲストハウスに泊まったのだけれど、プライバシーが確保されていなかったり、動線があまり良くなかったりすることも結構多くて。その点、内子晴れはとてもよく考えられていて、安心感がありますね。コロナ禍になる前は、海外客がよく来ていて、ここで交流する雰囲気が本当にステキだなと感じていました。わたしにとって、理想の空間です。
山内:20代で40カ国以上を旅したとき、ゲストハウスはぼくにとって、いろんな人に出会えて情報収集もできる旅の拠点のような存在でした。それに、世界中から人が集まるから、自分がもし“田舎”に住んだとしても刺激的な人に会えるだろうな、と思っていました。 世界一周で出会った青年にすすめられて「四国遍路」をしたとき、愛媛のおもてなしの気風に惹かれて神奈川県から内子町へ移住しました。もしここに、普段出会えない人に出会えて、自分の居場所になるようなゲストハウスがあれば客として行くのに、と考えていた程度で、自分でやろうとは思っていなかったです。
それから、内子町の地域おこし協力隊になって地域と深く関わることで、このまちがどんどん好きになっていって。地域の人たちのキャラクターだったり、景観をうつくしく保つように努める彼らの日々の営みだったり、それは一般的な観光ではなく内子町で過ごしてはじめて知ることができたんです。外から来た人たちにもこの魅力を感じてもらいたくて、ゲストハウスで地域やおもしろい人を案内するなら、地域やおもしろい人を知るぼくが適任だろうと。それで、自らつくろうと決心しました。
シーバース:
私も、宿をやるのはわたしがやるべきこととは思ってなかったです。大きな被害をもたらした「平成30年7月豪雨」の年、神奈川県から災害支援に来た縁で野村町に出会い、人の温かさ、人と人とのつながりの濃さが好きになって移住しました。
「飲む村のむら」と言われるほど、お酒を飲む文化があるまちなので、この地域のためにバーとかカフェとか人がお酒を飲んだりする空間で、人と人とが出会う場をつくりたかったのと、横浜にいたころ、ベルギービールのお店で働いていた経験もあって、いつの日か、自分が好きなお酒を味わってお客さんと共感する場所をつくりたいと思っていたので、まずはバーありき。災害支援のときから、野村に宿泊施設が必要という地元の声も聞いていたので、地域のニーズのゲストハウスと自分のやりたいバーを掛け合わせたのが、entohouseです。
シーバース:わたしも大輔さんと同じく、移住して野村の地域おこし協力隊になったのですが、協力隊になる前、すでにゲストハウスをやろうと決めていたので、2、3カ月ほど、週に1、2日、内子晴れのお手伝いをしました。昼間の掃除とか、夜のバーの手伝いとか、学ぶことができたし、それ以降も大輔さんにいろいろと相談に乗ってもらいました。
山内:ぼくはゲストハウスで働いたことがなかったので、開業するための合宿に参加しました。実際に運営している人たちが全国を巡回しながら開いている合宿で、2日間、「何のためにやるのか」「どうやって営むのか」「まちに本当に必要か」など、動機や内容を詰めていきました。1日のスケジュールや稼働率、宣伝の仕方など細かく教えてくれて。その間に、自分の事業計画も立てて、2日目は「こんな感じでつくります」とプレゼンしました。
リアルな話もたくさん聞けたし、参加してよかったです。その後は、ゲストハウスを運営していくために、大学時代の仲間だった関東在住の建築家やデザイナーをはじめ、4人で「アソビ社」を起業してチームで進めていきました。
山内:内子晴れは最初から“建物ありき”でした。協力隊時代に空き家の調査をしていて、町並み保存地区でこの建物を視察した瞬間、雰囲気と造りから「ここでゲストハウスをやったらいいだろうな」とインスピレーションを受けましたね。
シーバース:わたしは建物を探すところからはじめました。意中の建物があったけれど、大家さんとのやりとりでダメになって。野村のあちこちに自分の顔写真付きの手作りチラシを貼って、空き家を募り、築70年の古民家にめぐりあいました。
ただ、のどかな住宅街にあったので、地域住民の理解が不可欠です。地区の会合に参加して、「ゲストハウスとは何か」から説明しました。納得してO Kをもらうまでにかかった期間は4カ月ほど。ようやく合意をもらって大家さんに報告したら、「まちのためになるならぜひ活用して」と応援してくれて。すごくうれしかった!
シーバース:バーとゲストハウスとで、建物のリノベーション代は800万円ほどです。備品も含め、トータルでは1000万円ぐらい。西予市の地域づくり活動を支援する交付金と、その他、西予市の開業支援やゲストハウス整備に対する助成金などで約半分を、もう半分は自己資金を投入しています。銀行の創業セミナーに参加し、担当の人がお金の計算をしてくれて10年間の返済計画を立てて、それに基づいて借り入れました。
山内:ぼくも工事費だけで800万円ほど。あとは備品代と、自分の給料も払っていたので全部で1200万円ぐらいかかりました。なんと、解体前に出した予算の倍!
シーバース:古民家の改修って結構お金がかかりますよね。わたしは協力隊の中でも、ある程度自由に時間を調整できる「個人事業型」だったので、地域の理解を得ながら一部の活動費を必要な形で改修に活用できたのも助かりました。一緒に壁を塗るといったワークショップを地域づくり活動の一つとして、たくさんの方に関わってもらいながら実施するとか。協力隊任期中に開業したからこそ、できたことです。
本当は協力隊2年目にはオープンしたかったのだけれど、3年目に入ってようやくオープンできました。観光資源がほとんどない野村町でやっていけるか不安だったので、協力隊の収入があるうちに開業して、長めにお試し期間がほしかった。
山内:ぼくもできれば協力隊の在任中にオープンしたかったけれど、完成が予定より遅れてしまって。ゲストハウスができるまで無収入になるので、自分の会社から給料を払う羽目になりました。最初、借り入れも考えてなくて、自己資金や補助金を駆使しながらやろうと思っていたけれど、途中で予算を大幅に超えることがわかったので、慌ててクラウドファンディングもやったし、銀行から借り入れもしました。
シーバース:クラウドファンディングに挑戦したら知名度も上がりますしね。私もやろうとしていたのですが、開業準備に追われて、内容や伝えたいことをまとめるのにすごく苦戦して。お金は足りているから「一旦待とう」ってなりました。大輔さんはやってよかったですか?
山内:大変だったけれど、やってよかったですよ。目標を上回る額を募ることができたし、どういうことをやっていこうとか、どう伝えようかとか、いろんな事例を調べながら自分たちの考えや伝えたいことに真剣に向き合うことができました。クラウドファンディングがなかったら、ここまではできなかったはず。
クラウドファンディングの記事を通して、どんなゲストハウスかが読者に伝わることでオープン前からファンになってくれたし、今でもクラウドファンディングのサイトに記事が残っているおかげで宣伝ツールにもなっていますしね。
シーバース:クラウドファンディングができなかった分、作業のボランティアに来てもらった人たちに自分の思いやストーリーを直接伝えていました。
オープン前にはできなかったけれど、2022年内に2階に部屋を増やすのでその時にクラウドファンディングをやろうと考えています。今はまだ2部屋しかないので、支援してくれた人への返礼品を考えたとき、一人部屋の予約ができるようにしたくて。それに、ゲストハウスを続けていくなかで、単調よりはいろいろと仕掛けていきたいというのもありますね。
山内:たしかに、やる時期は考えた方がいいかもしれない。ぼくの場合、建設途中でやったので、本当に大変でした。現場にいなければいけない立場で、クラウドファンディング用の文章などを用意しなくてはいけない。当時は相当追い込まれて、めちゃめちゃしんどかったから。
シーバース:野村にはない空間にして、開けてびっくり、「ワオっ」ってなる感じにしたかった。だから、神奈川・茅ヶ崎の設計士にお願いしてデザインにこだわりましたね。
山内:ぼくはアソビ社のメンバーと話して、建物をまずは解体してからデザインをどうするか、どういう風にやっていくかを考えよう、ということになりました。なので、具体的なイメージはなかったけれど、古いものを復活させて使うというよりは、過去のものに現在のスパイスを加えていくみたいな感じで進めていこうと。
シーバース:あと、しつらえに地元の伝統産業を取り入れました。お隣の鬼北町と、野村の手すき和紙を母屋の壁紙にしています。地域の人たちの愛着も生まれるし、宿泊者の方にも和紙のことを伝えることができます。手すき和紙でオリジナルの丸い灯りもつくってもらったのですが、本当にステキなんですよ。
山内:内子晴れも、同じような取り組みをしていますね。天井には和紙の原料になる楮(こうぞ)を編み込んでいるのです。ワークショップを開いて、みんなで編み込む作業をやりました。目に見えるところに楮を使うことで、お客さんに「内子は和紙の産地で、体験もできるんですよ」と案内ができますよね。こうやってリノベーションに地域のもの・ことを取り入れることが、ゲストハウスとまちをつなぐコミュニケーションツールになると思っています。
シーバース:予算が少ない分、人件費を抑えないときついので、掃除や物を動かす作業、大工さんの補佐などは、たくさんのボランティアのみなさんに協力してもらいました。
たとえば、古民家のリノベーションでまずやらなきゃいけないのは、大量の荷物出しです。わたしは「宝探ししませんか?」と呼びかけて、荷物出しをワークショップにしました。協力隊、地元の人、行政の人たちが手伝ってくれて、それぞれのほしいものを持ち帰ってもらったんです。本当にたくさんの人が協力してくれたので、少ない予算でも納得の状態に仕上げることができました。
山内:同じく、内子晴れの改修でも、たくさんの友人やS N Sを見てみてくれた人たちがボランティアで手伝ってくれました。参加した友人が次の機会にまた別の友人を来てくれることもあって、リノベーションのコミュニティみたいなのができていきましたね。
シーバース:そうやって積極的にいろんな人を巻き込んで、ゲストハウスがオープンする前にファンをつくっていく感じですよね。
山内:ファンづくりもそうなんですけど、リノベーション自体が、人と人とがつながる場になる、そんな役割を果たすとも感じました。
シーバース:わたしは、「がんばってもここまでしか払えません」と地元の大工さんに伝えて、1人にお任せしました。特にバーは、床のコンクリの打ち直しからしているので時間がかかりましたね。工務店が入って数名の大工でやったのなら、お金はかかるけどもっと早くできたはず。
山内:ぼくも同じように現場監督を入れず、大工さん1人でやってもらったのでその分完成まで時間がかかりました。もし現場監督を入れたら、お金はかかるけれどもう1、2カ月早くオープンできたと思うし、そうすれば、売り上げももっと前から伸びていたわけで。そのあたりの判断が大事ですね。
シーバース:わたしの場合、設計や建築の知識がなさすぎて、設計士さんと大工さんが話しているのについていけなかったのが反省です。いろんな建物を見たり、ゲストハウスの例を知ったり、ゲストハウスの立ち上げに参加したりした経験があると、アイデアも含め、もっと建設的な話ができたのかも。
山内:自分がどれだけ建築を知っているか、あるいは、知らないのだったらちゃんと専門の人を入れて、その人と一緒に勉強しながらやるか。そうすれば結果、お金も抑えられると思うし、もっとスピーディにできたかもと反省しています。
シーバース:でも、時間がかかったことでよかったこともありますよね。いろんな人が関わってくれたし、建物の壊し方とかもつぶさに見ていたので、メンテナンスが必要になったとき、直し方が多少わかるようになりました。「もう一軒やりたい」と思ったぐらい、改修に立ち会うのは楽しかった!
山内:現場を任せきりにしない分、愛着もわきますしね。お客さんに建物のことを聞かれたら、いちいち細かく説明できる(笑)
山内:ゲストハウスをつくるのって、本当に大変です。自分たちでリノベーションまでやるのか、それとも、任せるのかとか、事業計画をつくるのも、費用を集めるのも大変。楽しかったけれど、思い起こすと「しんどいな」という日が結構あって、やってよかったのは後から振り返って思うことです。
シーバース:どんなひとに来てもらいたいか、とか、どんなふうに滞在してもらうかなど、イメージしながら事業を計画していくのはおもしろくもあり、一方で不安もありましたね。計画はあくまで計画でしかないから(笑)
山内:ぼくもゲストハウスの合宿のときに書いた事業計画の通りにはまったくなってない!(笑)あと、細かい話になるけれど、どれくらいの規模感でやるかは悩みましたね。ゲストハウスなのだから、できるだけ安く泊まってほしい。そのためには快適性を担保した上で、ベッド数をどれだけ確保できるか、ということを吟味しなければいけません。内子晴れは布団ではなく、二段ベッドにしたのだけれど、上と下でゲストの入り口が重ならないようにしたり、天井を高くとるために設置場所に気をつけたりと、こだわりました。
とにかく、ゲストハウスをやっている人は増えているから、いろんな実践者に話を聞いて、始める前に自分に合う形を見つけることが大事です。
ゲストハウスのオーナーに会いたいつくり方を詳しく知りたい、
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