林業家を目指してまっすぐに

久万高原町地域おこし協力隊 島 綾乃さん

 石鎚山をはじめとする四国山地に囲まれた山あいに、人家や農地が点在する久万高原町。冬になれば雪が積もる標高300〜1000メートルという山間部に位置し、仁淀ブルーとして有名な仁淀川の源流、面河川・久万川が縦走する水源地域でもある。

 そんな久万高原町で基幹産業の一つでもある林業に地域おこし協力隊として携わっているのが、北海道から家族で移住した島綾乃さんだ。

木にかかわることをより源流に近い場所で

 大工として働く夫の補助をしていたこともあり、木はもともと身近な存在だったという島さん。

 新型コロナウイルスの感染拡大やウッドショック(木材不足・価格高騰)などの影響により仕事の環境が変わる中、仕事や家族のこれからについて考えるようになったという。家を建てるよりその原点である自然に近い場所で働きたいと、夫とともに林業に携わることを目指した。せっかくなら北海道を出て環境を変え、知らない土地で新しいことをしてみたい、そう考えて移住先を探していたとき出会ったのが、久万高原町だった。

 「林業事業体への就職を考えながら空き家を見に来たので、地域おこし協力隊について説明されてもピンときていませんでした」

 当初は夫婦ともに大規模な林業事業体への就職を考えていたが、保育園に通う子どもがいる島さんには勤務体系が合わなかった。

 「地域おこし協力隊であれば仕事と子育ての両立をしながら技術を身につけることができるのではないか」

 そう提案してくれたのは、今暮らしている家の大家さんであり、林業担い手育成の講師でもある人だった。

 巡り合わせとしか言えない縁とタイミングで協力隊に応募。林業の担い手育成ミッションで協力隊募集を始めたところだった町のニーズともマッチし、2022年4月から久万高原町の地域おこし協力隊として活動することになった。

難しいからこそおもしろい、学びの日々

 現在、町内で林業の担い手育成ミッションで活動する地域おこし協力隊員は2名。資格取得など基礎的な研修を受けたのち、それぞれベテラン林業家の指導の下、施業現場に入り、下刈り・植栽・伐倒・枝払い・造材・搬出などの実習を行っている。

 思ったことはやってみたい、やらないと気が済まない、という島さんにとって、実際に現場に入り林業経験の長い人たちから学ぶ現在の活動は、とても刺激的で楽しいものだという。山に入り、木を伐ること、運ぶこと。何もかもが初めてだが、だからこそ毎日が学びの連続で、それがとても楽しい。とはいえ、力仕事中心の慣れない作業に体が悲鳴を上げる日もあった。

 「疲れ果てて何もせずに寝てしまうこともありました」

 寝不足など体調不良は現場では命に関わるので、体力の回復を最優先し、日々の活動に向き合っているという。

 思ったとおりに木を倒せた時はとても嬉しいが、一本一本枝ぶりの異なる木、傾斜の異なる山が相手ではうまくいかないことも多く、そこには学びが詰まっている。

 代々山に関わってきた人も多い先輩林業家の方々からは、山に対する姿勢や視点も学ぶ。山主さんの想い、山のあり方、木一本一本がもつ個性。それを知り、見極めていくのはとても難しい。難しいからこそ、おもしろい

 「数をこなして見極めていくしかないので、協力隊のうちにできるだけ経験を積んでいきたいと思っています」

当たり前のことをあたりまえに

 まずは当たり前のことを当たり前にできるようになること。それを大事にしながら、技術を高めることに注力したいと語る島さん。山を任せてくれる山主さん、技術を伝えてくれる先生たち、応援してくれる地域の人たち。その想いに応え、技術を磨き、独り立ちすること。それが今自分を支えてくれる方々へ恩を返すことにつながるのではないか。

 「自分自身も含めて地域としていい形を目指したいですね」

 外からやって来た移住者が、技術を身につけ、林業を生業にできること。それは、地域で林業に携わる人にとっても、久万高原町で暮らす人にとっても、林業への従事や久万高原町への移住を考える人にとっても、モデルケースになることだろう。

 「林業がやりたくて来て、林業に携われているので毎日楽しいです」

 迷いはない。自分で選択したことと、町が求めることがマッチしているので、迷う余地がないのだという。将来的にどんな形で林業に携わるかは模索中だが、どんな形であっても自分が独り立ちできていれば大丈夫、と信じて日々の活動に向き合っている。 空に向かって伸びる檜のように、まっすぐに突き進んでいく島さん。真摯で前向きなその姿勢が、町や林業の世界にどんな影響をもたらすのか、これからが楽しみだ。