ずらりと大行列「けんちゃん たこ焼き」のキッチンカーに至るまで

伊方町 元地域おこし協力隊 田中健介さん

四国の西の端に位置する佐田岬半島。ジオラマのような山々が続く国道197号を車で走ると、途中、右を見れば瀬戸内海、左を見れば宇和海という二つの海に挟まれた大パノラマに目を奪われます。透き通る海と砂浜が続く大久地区に、田中健介さんは2020年に伊方町地域おこし協力隊として大阪市より移住しました。2023年に結婚後、夫婦でキッチンカーによるたこ焼きの販売を行なっています。

夫婦の人柄と、出汁が効いた大阪のたこ焼きにリピーター続出!

そもそもたこ焼き屋をするはずじゃなかったのに、今や町の人気者

キッチンカーという機動力を武器に伊方町内のみならず、愛媛県の各地でけんちゃんたこ焼きの行列を見ることができます。

Q.ズバリ、けんちゃんたこ焼きの人気の秘密はなんでしょう?

自分の人柄です!!と言いたいところですが、正直なところ自分でもなぜこんなに人気があるのか、わかりません(笑)
愛媛では、たこ焼きにキャベツを入れると聞いて、大阪出身の僕は驚きましたが、キャベツは入れません。中がトロトロで生地に出汁が効いている本場関西のたこ焼きです。オリジナルメニューとして、佐田岬で採れる海藻のクロメを使った「黒め塩味」はとても人気があります。

Q.最初からたこ焼き屋をしようと移住をされたのですか?


フリーミッションの協力隊として移住し、伊方町に事業提案をしたのは佐田岬半島の自然や地形を生かしたスポーツ合宿誘致事業でした。しかし、実際に住んでみると濃霧などの自然現象や、食事等の提供と動線が不十分であることが分かり、多くの課題が山積みで断念。次に考え付いたのが空き地の利活用で、アウトドア事業として亀ヶ池温泉裏の広い公園の草を刈り、キャンプ場として運営をスタートしました。しかし、オープンして10日後、亀ヶ池温泉に落雷による火災が起き、やむなく休業することになってしまったんです。
これからどうしたものかと悩んでいた時に「室鼻公園は夏にプール開きがあるけど自販機も何も無いんよ」と町民の声を聞き、土日にかき氷とジュースを販売したところ、これが好評でした。そうすると別の方から「関西人なら、たこ焼き作るのうまいやろ?」という、とてつもない偏見からたこ焼きの依頼があり、「タコパの延長ですよ〜」と振る舞ってみたところ、「美味しい!イベントで出しなさい」という嬉しい声。それから町内外のイベントで、たこ焼きを出店するようになりました。初めは慣れない部分もありましたが、お客様との会話が楽しく、美味しそうに食べる姿を見るのが嬉しくて、やりがいを感じるようになりました。徐々に人気が出始めて、いろんな場所に呼んでもらえるようになっていき、協力隊の3年目に思い切ってキッチンカーを購入しました。結婚もして妻も手伝ってくれているので非常に強力なたこ焼き屋になりました。忙しすぎて顔が険しい表情になっている時は、お客様から「笑って」とつっこまれるので、僕もなんとか笑顔でやれてます(笑)

左が佐田岬半島産の海藻クロメを使用した「黒め塩味」、右が定番人気の「ソースマヨ味」

協力隊卒業後の働き方

Q.キッチンカーで経営するメリットデメリットはありますか?

メリットは、やはり移動ができるところです。各地に出向けるという点はキッチンカーならではですね。町民から依頼をいただき、そこの集落で出店することもあります。また営業区域の拡大や出店場所を選べるのもメリットになります。維持費に関しても店舗を持つよりはるかに安いですね。
デメリットとしては、天候や時期に左右されやすい点です。イベントが少ない冬の閑散期や悪天候などの影響によりイベントが中止になることもあり、数字の見通しが難しい部分もあります。出店場所の拡大には売り込む力や集客力などが必要になります。キッチンカー運営者同士でマルシェ情報などを共有することもありますよ。

Q.協力隊卒業後、地域との繋がりはいかがですか?

協力隊卒業後は平日に町内で出店していることもあり、よりいろいろな人と関われています。協力隊の任期中から、地域のお祭りスポーツ団体の活動などにも積極的に参加しており、現在も継続しています。また、住まいのある大久地区の消防団に入ったところ、操法大会の選手をすることになり、愛媛県で優勝し全国大会も経験させていただきました。沢山の方々から祝福と賞賛の言葉をいただき、より地域と繋がれた感じがしています。ある意味、協力隊任期中よりも更に色んな方々と濃く繋がれていると思います。

愛媛県消防操法大会で優勝し、全国大会に出場!

流した汗は裏切らない、人との繋がりが成功のカギ

Q.移住前の田中さんにアドバイスするとしたら、どんな声をかけますか?


意味がない事はない」という事です。
協力隊として着任して1年目は、「誘いを断らない」と自分ルールを決めて、地域行事の手伝いや飲み会など様々なところに顔を出して自分をアピールしてきました。内心では「この飲み会に意味あるのか?」と思うこともありましたが(笑)、町民の方との何気ない会話からヒントをもらい、結局は今の事業に繋がっています。また交流し、協力することで、困った時に協力してくれる方が沢山できました。そういった意味で周囲からのお誘いは喜んで引き受けることが大事だと思います。

Q.3年の任期終了記念に多くの方にたこ焼きを無料で振舞われましたね。


現在の伊方町は3町が合併してきた自治体です。1箇所だけで実施すると移動手段がなく来れない年配の方も多いので、3地区で合計600人前を卒業の感謝を込めて振る舞いました。材料費も協力隊の活動経費からは出さずに自腹で行いました。すべて赤字なのに、不思議と自分自身がとても気持ちの良い感覚でした。そして、そのことを今だに感謝してくれ、リピーターになってくれた町民の方もたくさんいます。

Q.今後の展望、取り組みなどあれば教えてください。

現在は、南予周辺での出店が中心になっていますが、中予での出店要請も入ってきているので、結果を出しながら県内各地、幅広く売れるたこ焼き屋を目指します。今後の展望としては、キッチンカーの台数を増やし、フランチャイズ化を目指しています。現在もイベントがブッキングしてしまう事が度々あり、いずれかを断らないといけない状況です。何台か保有していれば複数か所での出店が可能になります。その為には、新メニューの追加や人員確保、出店場所の拡大など様々な課題が出てきますが、楽しく乗り越えていきたいと思います。

地域での飲み会がビジネスのヒントになることも!?

並んでも食べたい人気の「けんちゃんたこ焼き」