宇和島市 元地域おこし協力隊 水野裕之さん
宇和島市は、愛媛県の西南部に位置し、西はリアス式海岸が宇和海に面し、東は1000メートル級の鬼ヶ城連峰と接しています。年間を通して温暖な気候ですが、梅雨前線や台風の通過が多い時の年間降水量は全国平均の1.5倍にもなります。
水野裕之さんは2018年2月に宇和島市九島に家族で移住し、地域おこし協力隊として、準備期間を経て飲食店の「nicco」をオープン。現在は独立し、九島の数少ない飲食店として、観光客だけでなく、市街地在住のお客さんも訪れるお店となっています。
「飲食店を九島で開きたい」 その手段として協力隊になった
Q宇和島市を選んだ理由を教えてください。また、今の暮らしはどうですか。
まず、学生の頃から漠然的ではあるのですが、飲食店をやりたいと思っていました。それも、手軽にお腹いっぱいになるファストフードではなく、自然とコミュニケーションが生まれてくるような場所です。目的としての飲食店ではなく、コミュニケーション手段としての飲食店といえばいいのでしょうか。
前にリゾートホテルで仕事をしていたのですが、その時もその地域ならではのアクティビティや料理などは、地域とのいい関係性がないとできませんでした。
それで、どこでそういったお店ができるかなと考えていたのですが、妻のおばあちゃんの家がこの島(九島)にあって、はじめて訪れたときに、島の人たちの人懐っこさだったりを体験して、ここならやりたいと思っていた飲食店ができるかなと思ったのが理由です。
そして、ちょうどその時、宇和島市が地域おこし協力隊を募集していて、面接の時点で九島で飲食店をやりたいと伝えて採用してもらいました。飲食店をやるための手段として地域おこし協力隊になったので、もし協力隊になっていなくても九島でお店をやっていたのではないかなと思います。
Q1日のスケジュールを教えてください。
朝は8時半くらいに家を出て買い出しに行きます。宇和島のきさいや(道の駅 みなとオアシスうわじま きさいや広場)とか、魚市場が多いですね。買うものはもちろん書きだしてから行くのですが、珍しいものや良いものがあれば追加で買ってきたりもします。
10時くらいにお店に戻ってランチの準備をして、11時半から2時まで昼の営業します。その後は休憩や夜の仕込みをして、18時から22時まで夜の営業です。片付けをしてから家に帰るので、帰るとだいたい日付が変わっているくらいでしょうか。
ちょうど協力隊になった頃に橋(九島大橋)ができたので、宇和島の市街地との行き来は格段に便利になりました。はじめて九島に来たときは、橋はあるけどまだ使えない時で、フェリーで対岸に渡っていたのを考えると、さっと行けるようになりました。
コロナ禍で正解が見えないトライアンドエラーを繰り返す
Q協力隊の任期中と任期後で変わったことはありますか。
このお店がオープンしたのが協力隊の2年目でした。なので最後の1年は協力隊としてお店をやっていました。任期後で大きく変わったことは、もちろん協力隊のお給料がなくなったことです。
市役所の担当者とも相談して、任期中のお店の売上げは任期後にこのお店を続けられるように整備したり、備品をそろえたりするために使いました。協力隊のお給料があったので、お店の売上を伸ばすことよりも、オペレーションをどうするかとか、このお店のあり方を考えたりとか、そういう部分をトライアンドエラーで伸ばしていきました。
ただ、僕の協力隊3年目はコロナ禍が始まったとき(令和2年)でもあったので、色々試行錯誤しているのが、本当にそれでよかったのかがいまいち分からないというのはありました。同じ時期に協力隊をやっていた人は、多かれ少なかれ同じような経験をしていると思います。
Q定番のメニューはあると思うのですが、増やしたりする予定はありますか。
開店した当初よりはメニューは増えています。自分でできる幅が増えてきた感じですね。いろいろな食材と出会ってきたので、その分の経験値みたいなものだと思います。先ほど話したように、書き出していく買い物は定番メニューですが、市場とかで出会った食材を予定外で買う時は、どう料理すると良いのかを考えてメニューになります。
短期的に売上が下がったとしても、地域みんなで九島を盛り上げたい
Q飲食店をやりたいと思っている協力隊にメッセージをお願いします。
飲食店は注文されたメニューを作って出せば良いだけではないですし、建物の改修や掃除、庭の草刈りとかの時間も捻出しなければなりません。サラリーマンと違って労働時間に対してのお給料は出ないので、普通の会社員と比べると、労働時間はかなり長くなります。それでもいい覚悟のある人じゃないと厳しいかもしれませんね。
Q最後に、今後の野望を教えてください。
どこで知ったのか分からないのですが、外国人の観光客が来店されることが結構あります。もちろん県内外からもお客さんは来てくれています。お店の売上げだけを考えれば、新しいデザートとか作ればいいと思うのですが、それよりも島の中を巡ってもらいたいなと思っています。
橋のたもとに、柑橘農家さんが夏の日曜日だけかき氷屋さんをはじめて、うちでご飯を食べた後、そっちへ行ってもらいたいなと。うちはデザートがでなくなっちゃいますけど、相乗効果があると思っています。
飲食だけじゃなくて、アクティビティとかも誰かやって欲しいです。他の地域と同じく人口減少は進んでしまっていますが、そういうものをやっていけば島が元気になっていくのではないかなと思います。