伊予市 元地域おこし協力隊 渡部正輝さん
伊予市双海町は、「沈む夕日が立ち止まる」というキャッチフレーズがあるほど夕日が美しく、柑橘やキウイフルーツのほか、いりこや鱧などの海の幸が豊かな町です。また、ドラマや映画のロケ地として有名な「下灘駅」があることでも知られています。渡部さんは、平成28年4月に双海町地域おこし協力隊のフリーミッションで着任し、3年間活動しました。持ち前の体力と明るい性格で、草刈りやみかんの収穫、新聞配達など、地域で必要な様々な仕事を積極的にこなしています。その働きぶりから、今では地域になくてはならない存在として、多くの人々に親しまれています。
協力隊から地域の一員へ 地域の人々に支えられた暮らし
Q.伊予市を選んだ理由や経緯を教えてください。
父の実家が長崎にあり、子どもの頃から田舎を訪れる機会が多かったので、田舎暮らしや地方での暮らしに興味を持っていました。移住を考え始めた頃、最初に見つけた説明会が愛媛県で、その時の双海町のプレゼンにあった子どもや飲み会の写真が印象的でした。元々水泳のインストラクターをしていて泳ぐことが好きだったので、実際に現地を訪れた時、好きな海が目の前にあったのは嬉しかったです。滞在期間中は、地元の方々と交流させてもらい、個別にみっちりと案内してもらいました。その頃地域活動が盛んな時期だったことと、地域おこし協力隊の活動内容がフリーミッションだったことが決め手となり、応募を決意しました。
Q.協力隊時の活動を教えてください。
地域おこし協力隊になった当初は、明確なビジョンは持っていなかったので、祭りや地域活動に積極的に参加しました。地元の方々にも温かく受け入れてもらい、何よりみんなと活動することがとても楽しかったです。2年目からはさらに地域活動に深く関わるようになりました。地元の方々ががんばっていることを応援し、共感して活動に参加するようになったからです。読み語り隊やプラットホームコンサート、公民館祭り、ビーチサッカー、商工会青年部(現在も活動中)、ほたる祭り、菜の花ウォークイベント、鱧まつり、地方祭など。2年目が終わる頃には、「ここなら、仮に食べられなくなっても、繋がった人々に助けてもらえる!」と確信し、双海に住み続ける決意を固めました。
地域活動は楽しくて今でも続けているものが多くあります。協力隊を卒業して5年経つ今でも、地元の方々からは「まだ協力隊してる」と思われることがあります。
協力隊を卒業する際、住んでいる集落の人たちが緊急で「今後どうするか」という飲み会を開いてくれました。「仕事が無いなら雇うぞ!」と言ってもらえ、とても心強かったです。今ではフリーで仕事をもらえるようになりました。特に得意な草刈りの仕事を振ってもらえることが多いです。
予想外の展開、双海の猫が地域に根ざした仕事で多忙な日々
Q.現在の生業や活動について教えてください。
できるだけ双海で仕事をしたいという思いと、協力隊時代の活動も続けたいという思いから、いつでも休みが取れる自営業を選びました。当初は農業をすることを考えていて、借りた園地で柑橘を栽培する予定でした。つなぎとして草刈りの仕事を始めました。今では週に3〜4日忙しく働く状況です。起業したのは協力隊の任期終了から1年後で、屋号を『何でも屋ふたみ猫の手』としました。僕のあだ名が猫なので猫、猫の手なのであまり期待しないでね、猫の手のつもりで仕事頼んでねという意味を込めました 笑 何でも屋の仕事週3〜4日に加え、繁忙期は1ヶ月以上休みが無いこともあり、嬉しい悲鳴をあげてます。
最初は草刈りだけでしたが、今では建築や漁協の仕事、新聞配達、双海の人材センターにも登録しており仕事が引きも切らない状況です。つなぎの仕事のつもりで始めたものが、今では手が足りないほど忙しくなっています。5月から9月は草刈り、9月中旬から2月末までは柑橘の収穫、それ以外の時期には工事などしっかりと仕事をこなしています。
Q.1日のスケジュールを教えてください。
4:00- 新聞配達
7:30-17:00 草刈り・収穫・漁協・建築などの仕事
19:00- 地域イベントや活動の会議(飲み会)
飲み会は多いときで週3回、平均すると月1〜2回ほどあります。正直、思い描いていた未来とは少し違います。当初は、農作物を栽培して加工して販売する仕事をしようと考えていました。農家さんが困っていることだし必要としていると思っていたからです。 けれど実際には、みんなとても元気で、困っているのはマンパワーの部分でした。 農家さんたちは、「稼ぎたい」というより「仕事を続けたい」とか「体力的にしんどい」みたいな問題があって、その部分をサポートすることが僕の仕事になっています。
双海で暮らす、双海で働く 地域と共に歩む
Q.これからの展望や野望など教えてください。
双海ファームさんや地域の建築業者さん、水道業者さんなど、地域で頑張っている方々がたくさんいます。耕作放棄地が増えれば害獣に作物を荒らされてしまうため、「やめられない」と言って農業を続けている方もいます。今年、4回も熱中症になりながらも踏ん張っている人もいます。彼らはお金儲けのためではなく、「自分がやらなければ誰がやるんだ」という思いで仕事をしています。こうした方々がいなくなれば、地域そのものが失われてしまうと感じています。
だからこそ、誰にでも仕事を頼むのではなく、顔を知り、その人となりを理解しているからこそ安心してお願いできる仕事を続けていきたいのです。地元の人たちも人柄を大切にしており、外から来た人がいれば面倒を見ようとしてくれます。みんなスーパーマンのような人を求めているのではなく、挨拶を交わし、酒を酌み交わし、地域の行事に参加し、神輿を一緒に担ぐような隣人が欲しいのです。お互いに支え合うことで成り立っている暮らしでもあります。
僕自身、時々泣き言を言いますが、そのおかげで助けられることも多いです。無理をせず、等身大の自分でこの地域で暮らすことができています。この暮らし方は、好きでないと続けられないかもしれませんが‥。
将来的には、自分でも農業をしながら、双海のために特別なスキルがなくてもできる仕事を請け負い、人を雇えるような形にしていきたいと考えています。