憧れを現実に~地道な関係づくりが築いた”理想の暮らし”~

伊予市 高木綾子さん

 愛媛県のほぼ中央に位置し、豊かな生命力溢れる山々、昔ながらの町並み、穏やかな瀬戸内海など様々な風土に彩られた伊予市。 そんな伊予市で地域おこし協力隊として活動した後、様々なレイヤーで伊予市や愛媛県への移住促進やまちづくりに携わっている高木綾子さんに、移住のきっかけから、一住民となってからの暮らしについて伺いました。

憧れだけでは乗り切れない苦労とそこから得たもの、見えた未来

Q:協力隊になった経緯、伊予市を選んだ理由を教えてください。
A:きっかけは、テレビ番組で見た「下灘駅」でした。当時住んでいた横浜から、下灘駅を目指して車で旅をしたことで、移住を考えるようになりました。決め手は旅の道中で見た、瀬戸内海に沈む夕日です。キラキラと光る穏やかな海にオレンジ色の大きな太陽が沈んでいく情景は、息をのむほど綺麗でした。
 興味をもって調べてみると、東京で移住フェアが開催されていることを知り、そこで初めて下灘駅が伊予市にあることや移住の手段として地域おこし協力隊があることを知りました。
 その頃、仕事とプライベートが切り分けられた暮らし方ではなく、「暮らしの中に自然とコミュニティが広がっていくような生き方」をしていきたいと考えていたので、協力隊という働き方は私にとってぴったりだと感じました。

Q:協力隊のときの活動について教えてください。
A:私のミッションは、伊予市観光協会を法人化(観光物産協会へ移行)することでした。とはいえ、私には専門知識もスキルも経験も人脈もゼロ。さらにコロナ禍が重なり、地域住民の方々と直接会うことすら難しい状況で、「何から手をつければいいのか」と途方に暮れていました。
 そんな時支えになったのが、コロナ禍でも可能な形で工夫しながら動く中で出会った地域の方々のアドバイスでした。「観光拠点から情報を集めた方がいいよ」「事業者の声を聞く場が必要だよ」という声に後押しをしていただき、早速実践していきました。
 地域事業者の声を聞く場としてワークショップを開催するにあたり、そのために必要なプロポーザルの要項作成や、数回にわたるワークショップの企画や告知、フィードバックまでを一通り任せてもらいました。行政の仕組みを学ぶこともでき、貴重な経験をさせていただきました。最終的に専門家の方の手を借りて「一般社団法人伊予市観光物産協会ソレイヨ」が設立されました。その過程を間近で見られたことや、公益の組織の成り立ちを構造的に知ることができたことは、とても勉強になりました。

Q:印象に残っている出来事や出会いはありますか?
A:
一番印象に残っているのは、ある農家さんとの何気ない会話でした。コロナ禍の当時、気兼ねなく行ける場所の一つが、伊予市の産品を生産している農家さんのところでした。離農者が増え、土地が荒れ放題になるなど、負の側面から農業の話を聞くことが多かったのですが、その農家さんは「作る喜び、食べてもらう喜び、環境に貢献している喜び、これが農家の喜びよ!」と誇らしげに話してくれました。私にとっては新しい発見でしたし、当事者である農家さんが心から楽しみ、誇りを持っているその姿は、地域の明るい未来を見せてもらったような気がして、とても勇気づけられました。

協力隊の時のつながりが広がってたどり着いた、仕事と暮らし

Q:現在はどんな仕事を教えてください。
 協力隊のときから続けていること、つながっていることはありますか?
A:
現在は、協力隊時代の縁を活かした「多業」という形で3つの軸を持って活動しています。

  • 伊予市観光物産協会ソレイヨ: 観光案内所での案内やサイクリングツアーのガイド。
  • 伊予市移住サポートセンターいよりん: 移住フェアでの相談対応や、下灘駅前にある「下灘商店」の店長、JICA海外協力隊の派遣前の実習の受け入れサポート。
  • えひめ暮らしネットワーク: 愛媛県の移住相談窓口や協力隊関連の事業。

 実はこれらのお仕事は、協力隊の後半から少しずつ始めていました。声をかけていただいたり、自分から「できることがあるかも」とできる仕事をいただいたりしていたことが現在の多業につながっています。
 また、協力隊活動でお世話になった事業者さんから「下灘商店」に商品を下ろしていただいたり、JICA海外協力隊の方の活動先として、これまで関わった地域の人たちを今度は自分が紹介したり…。協力隊活動をしていた時につながった人やできることが今でもそっくりそのまま生かされた活動をさせていただいています。

Q:趣味など仕事以外で大事にしていることはありますか?
A:
自然と環境に配慮した活動」を軸に、誰もが気軽に参加できる場づくりを大切にしています。
 ひとつはおよそ3年前に仲間と立ち上げた団体「伊予市の海をきれいにし隊」でのビーチクリーン活動です。約25kmある伊予市の海岸で、月に2回ほど清掃をしています。今では、ビーチクリーン活動のほか、市内の小学校で環境授業をしたり、自分たちでワークショップや勉強会などを開催したりして活動の幅を広げています。
 もう一つは、無農薬・無化学肥料の野菜栽培を行う団体「シゼンタイ」でのボランティア活動です。障がいを持つ方々と一緒に土に触れる時間は、私にとっても癒やしのひとときです。

地域の「ウチ」と「ソト」をつなぐ架け橋を目指して

Q:これからどんな風に伊予市や愛媛県と関わっていきたいとイメージされていますか?
A:
これまで移住者として、そして協力隊として、地域から数えきれないほどの恩恵を受けてきました。これからはその「恩返し」をしていきたい。地域の「ウチ」と「ソト」をつなぐ架け橋として、自分にできることで伊予市や愛媛県に貢献し続けていきたいです。

Q:協力隊や移住希望者へメッセージをお願いします。
A:
協力隊として活動していた頃の私は、「ミッションを達成しなきゃ」という焦りや、「何もできていない」という自分への不足感に、いつも心を揺らしていました。葛藤の連続だったと思います。
 けれど、そんな日々の中でも「自分はここでどんなふうに暮らしたいか」というイメージだけは、ずっと描き続けていました。今振り返ると、活動に向き合いながら「自分の理想の暮らし」の解像度を少しずつ上げていったことが、現在の多業生活に繋がったのだと感じています。
 もし今、移住や協力隊という選択に迷っているなら、ぜひ「自分の暮らしたいイメージの輪郭をはっきりさせる作業」から始めてみてください。 移住相談に行く、実際に旅をしてみる、ネットで情報を集める……手段は何でも構いません。アクションを起こすたびに、ぼんやりしていた「理想」が少しずつ形になっていくはずです。