伊予市 地域おこし協力隊 山田祐大さん
愛媛県のほぼ中央に位置する伊予市は、四国山地と瀬戸内海に面し海と山が非常に近く、豊かな海産物や農産物に恵まれている。自然が豊かな地方暮らしの良さを持ちながらも、県都松山市への距離も近く、その住みやすさも特徴である。
そんな伊予市の地域おこし協力隊として今年4月に着任したのが山田祐大さんだ。
モノづくりと自然
大阪府東大阪市で生まれ育った笑顔がすてきな祐大さん。大学卒業までを大阪で過ごし、就職したのは結婚式場などで植物やフラワーアレンジメントをする会社だった。自然が好きでこの仕事を選んだ祐大さんだったが、実際に勤め始めるとまともに帰宅できないほどの労働環境があまりに過酷すぎたため半年ほどで辞めてしまう。次に就いた仕事はアクリル加工の会社だった。町工場が並び、モノづくりのまちと呼ばれる東大阪、まさにその雰囲気そのものの世界だった。そんな町で育った祐大さんもモノづくりは大好き。決して従業員数の多い会社ではなかったが、精巧な加工技術で生産するオーダーメイドによる液晶テレビの保護パネルは全国でもトップクラスのシェアを誇り、新型コロナウイルス感染症の拡大以降は感染対策グッズとしてアクリル加工品はまさに飛ぶように売れた。モノづくりに没頭する充実感、そして売上にも反映する達成感、仕事は正直楽しかった。しかしいつの頃からか、もうひとつの「好き」である自然を捨てきれない自分に気付く。
「このままでいいのかな。。。」
いつかは田舎でスローライフがしたい。そんなことを考えることが多くなった。奇しくもコロナ禍における距離感の変革により多くの目が地方に向いた、そんな時だった。
夕日の町の協力隊に
地方移住のリサーチをしている間に地域おこし協力隊の制度を知った祐大さんは、移住後の収入に不安もあったことから、移住のきっかけとして地域おこし協力隊になること決意する。しかし時は地域おこし協力隊の募集乱立時代、たくさんの地域に数多くのミッション、行き先はなかなか絞れずにいた。
そんな中で、関西圏からの近さと募集内容への興味から香川県さぬき市の地域おこし協力隊に応募したが、当地には縁のない結果となった。しかしその時に瀬戸内の魅力を感じ、それ以降は瀬戸内海沿岸を中心に募集情報を収集するようになり、伊予市を知ることとなる。愛媛に縁のなかった祐大さんには、どこかで田舎すぎる地域への不安もあった。その点で、都市過ぎず田舎過ぎないという伊予市に興味を持ち、一度行ってみようと問合わせをした。
12月の半ば、伊予市に見学に訪れた祐大さんは、一瞬でその夕日に魅了されたという。
「こんなところに住みたい。夕日のパワーがすごい!」
地域おこし協力隊になる動機は、一般的に「このミッションでの活動がしたい」という方と「この地域に住みたい」という方の2つに大別できるが、祐大さんは後者だった。期間限定とは言え、仕事と住まいが得られる地域おこし協力隊を選んだことで、移住にあたり自分の中に湧き上がった「ここで暮らしたい」という想いを優先できたのだ。
さて、ミッションだ。当時、伊予市では、①空き家活用 ②シティプロモーション ③関係人口創出 ④事業提案型と、4つのミッションでの募集がおこなわれていた。簡潔に述べるとどれも堅苦しい印象のミッションであるが、関係人口創出ミッションを選んだ祐大さんはいつもの笑顔でこう語る。
「いちばんボンヤリしたミッションにしました。活動の幅が広そうだったので。」
その想いに呼応するように、市役所担当課も、本人の感性を活かして幅広く活動してほしいと望み、2023年春、祐大さんは晴れて夕日の町の住人となった。
ノープランからの関係
関係人口の創出というミッションは実に幅広い。「ここに住みたい」という想いひとつで着任した祐大さんにとって幅が広ければ広いほど、何から手をつければいいのかわからなかったそうだ。しかし自分が関係人口側ではいけない、何をするにも地盤となる地域の方々とのつながりを作っていかないといけないと思ったとき、たくさんのきっかけをくれたのが先輩協力隊員だった。
伊予市ではこれまで前任者が任期満了になるタイミングで募集することが多かったため現役隊員の先輩が少なかった。しかしコロナ禍による任期延長の特例措置が始まったことにより、かつてないほどに現役の先輩隊員と共に活動する機会を得ることになった。先輩隊員の活動を手伝いながら、市内各地区でつながりを増やしていくことができたのだ。
田舎暮らしでは初めて知ることや体験することだらけ。自然が好きで地方移住した祐大さんにとって伊予市での毎日は楽しすぎて、あっという間に時間が過ぎていくように感じた。
活動への足がかりを探していた祐大さんは、自身と同じように豊かな自然を求めている人が伊予市と出会うきっかけになればと、畑を借り、ムクナ豆という作物を育て始めた。あまり耳にしないこの豆を紹介してくれたのは市職員を通じて知った他市町の方、畑を貸してくれたのは先輩隊員を通じて知り合った地域の方だ。活動の種まきとして続けているつながりづくりは早くもその芽を出した。
「珍しいこと、そして栽培が簡単なものということで選びました」
珍しい成分が含まれるこの豆は食用というよりかは粉末に加工してサプリメントとして使われることが多いそうで、卸先が決まれば収益化も見込めるかも知れない。
「今はまだ未経験だし僅かな量をテスト栽培してる状態ですが、畑という拠点と、変わったものを作っているという話題性が、この先関係人口につながっていかないかなぁなんて思ってます。」
地元の農業高校の生徒たちが畑に見学に来てくれたりと、早くも話題になっているようだ。
他にも、まだまだ模索中ではあるが、借りた畑の一部でスパイス農園を考えたり、藍を育てて活用するグループに入れてもらったりと、やりたいことやつながりは留まる気配がない。好きなことである「農」と、ミッションである「関係人口」を絡めて、公益性を広げていくことを探っていきたい。
刺激いっぱいの毎日
1か月、2か月と遅れて着任した同期の協力隊は同世代の男性隊員たち。三者三様にタイプの違う仲間だが、だからこそ他の2人のパワフルさには常に刺激を受ける。それぞれミッションは異なるが、今は行動を共にすることも多く、3人で何か一緒にやってみたいという想いもある。
また、思わぬところでも仲間が増えた。伊予市がJICA海外協力隊グローカルプログラムを受け入れたことで、3人の海外派遣前の隊員が2か月半ほどの間、伊予市に滞在し様々なボランティア活動などをおこなうこととなり、伊予市の地域おこし協力隊とも活動を共にする機会が多くあった。一時的に地域おこし協力隊が増えたような状態であった。自分が得たつながりをまたすぐに紹介していく、自分を介して人がつながっていくことを実践できたのだ。さらにそのうちの1人は農業にも興味があり、過ごす時間も特に長く意気投合した。プログラム期間は終了してしまったが、海外派遣の後もオンラインで交流することを約束し、今後は海外との接点にもつながっていきそうだ。
いつもニコニコして大らかな雰囲気の祐大さんだが、どちらかというと、イベントなどで陣頭指揮を取るような、前に前に出ていくようなことはあまり得意ではないと自己分析する。確かにその雰囲気はある。
「ぼくが一人で全部やらなくていいと思うんです。」
そう、祐大さんには心強い2人の同期と頼もしい先輩協力隊員、そして増え続けるたくさんの応援してくれる地域の方々がいる。その笑顔と人懐っこさで、自然に伊予市の関係人口のハブとなっていく日はそう遠くない。着任時から蒔き続けた種は芽を出し、つながりという名のツルは一体どこまで伸びていくのか、豆と共にこれからが楽しみである。