特産品開発を続けるため、気候変動適応対策に挑む

西予市 地域おこし協力隊 野島悠伺さん

西予市地域おこし協力隊 野島悠伺さん(左)と、ともに気候変動適応対策にとりくむ中岡さん(右)

 西予市明浜地区特産品開発をミッションに活動をしている野島悠伺さん。神戸出身の野島さんは、県内での会社員を経て西予市明浜地区で特産品開発をミッションとする協力隊へ。現在では、活動の一環で、明浜の海でダイビングも行っていると聞いた。一見つながらない特産品開発とダイビング。その二つを何が繋いでいるのかを紐解いてゆく。

明浜の海に潜る

 最初の集合が宇和地区だったので、当初は市街地で特産品開発を行うのかと思っていたそうだ。しかし、そこから明浜地区へ移動したところ、自然の豊かさに驚いたと話してくれた野島さん。しかし、前職も愛媛県に住んでいたこともあって、地理や気候は慣れているし、スケールは違えど生まれ育った神戸と明浜地区はどちらも海と山が近いため同じような雰囲気があるそうだ。コンビニがちょっと遠いかな、と野島さんは笑顔で言う。活動の一つであるダイビングや地域での活動など、初めてのことも多いが、地域での生活は充実していると語ってくれた。
 今回、取材に同席してくれた中岡氏は、野島さんの活動を指導し支えてくれる重要な存在だ。中岡氏はダイビング歴40年以上のベテランで、宇和海の海洋環境の定点観測を国の機関と共同で行っている。近年、海洋環境も急速に温暖化が進んでおり、温帯の魚が北上してきたり、珊瑚の群落が変わったり、それにより海藻が食べ尽くされてしまい海の資源の枯渇が進むなどの問題がある。明浜地区の海も例外ではない。その環境を定期的にモニタリングする人を育成しなければならないこともあり、野島さんの活動拠点にもなっているシーサイドサンパークを経て、一緒に中岡氏の気候変動適応対策の活動をやらないかという話になったそうだ。

持続可能な特産品の開発を目指して

 特産品開発とダイビング。この二つは一見関係がなさそうにもみえる。特産品開発を行っている地域おこし協力隊は多く存在しているが、その地域の今ある資源を活用した特産品を作ることが多い。野島さんも明浜地区ならではの特産品開発に取り組んでおり、すでに地元企業と共同で柑橘の日本酒などを開発し商品化している。しかし、それはやはり、今ある資源での特産品だ。ダイビングをするのは、その今ある資源を今後も継続して使えるようにするための活動に他ならない。今ある資源を10年後も同じ品質で利用できるだろうか。特産品の開発という部分だけにフォーカスしても、その原材料を継続的に調達できる「環境」、それを継続していく「社会」、それがあっての特産品開発という「経済」が成り立つ。そのために、変わりゆく環境をしっかりと記録するためにダイビングをしている。もちろん、環境を記録するためだけのダイビングに留まらず、インスタ映えする水中写真を撮影したり、この地域に残る100年くらい前の石灰産業遺産群の遺構などをPRしたりもして、地域や活動を知ってもらえるようにもしている。

協力隊だからこそできる任期後を見越した土台作り

 地域おこし協力隊の3年間の半分が経過した野島さんに、任期終了後はどうするかを聞いた。一般的に、協力隊のミッションである特産品開発だけでは任期後の生計を立てるのは難しい。しかし、現在の活動拠点であるシーサイドサンパークでの特産品開発は続けたいとのことで、まだ1年以上任期は残っているが、どのようなスキームで行えるかを模索しているとのことだ。他にも、ダイビングは継続して行い、高齢化する地域の農業も手伝ってほしいと依頼されている。そういったことを組み合わせていけば生計は立てられるのではないかと野島さんは考えている。地域をPRして観光客を呼ぶことも地域を知ってもらうためには重要だが、一方でいわゆるオーバーツーリズムになってしまうことは避けたい。どのくらいが適正なラインなのか、それはリスクを許容できる協力隊の任期中に行っておきたい。ただ、美しい景色を見たり、映える写真を撮影したりするダイビングではなく、珊瑚の修復やゴミ回収のような体験型の観光を目指したい。野島さんはすでに任期後を見越して計画を立てていた。任期後の野島さんの活躍が今から楽しみだ。