「地域への愛があればOK」を、証明しています。

地域おこし協力隊 松山市北条地区 杉山育代さん

奈良県大和郡山市出身。東京都で専業主婦を経て、36歳で娘さん2人と奈良へ戻る。子育てをしながら、損保会社の代理店向けの営業をこなす。趣味の旅行で松山のファンになり、2019年10月から松山市(北条地域担当)の地域おこし協力隊に着任。SNSで地域の魅力を発信している。

旅行して、松山のファンになる。

県内でも有数の、瀬戸内海のオーシャンビューで知られる松山市北条エリア。2019年10月にこの地区で地域おこし協力隊となった杉山育代さんは、旅で訪れた松山の、風光明媚な景色と人の温かさでファンになったことで、いまのしごとに着いています。

育代さんは奈良県大和郡山市出身。東京都で13年間、専業主婦をしたのち、36歳で離婚。奈良の実家に戻り、2人の娘さんを育てながら、損保会社で働いていました。

「死ぬまで働くことが人生の目標です。いまのしごとでいいのかと、ずっと悩んでいました。ストレスも多い職務だったので、その癒しになったのが松山への旅行だったのです」

毎月各地へ旅行をしていたという育代さん。はじめて松山を旅したのは2016年の夏。電車を乗り継ぎ、単身で道後温泉へ。ガイドマップにあった、北条の温泉施設が気になり、足を伸ばします。そこで、瀬戸内海のうつくしさと、乗船5分でたどり着く小さな島「鹿島」の景色がお気に入りに。「次はあの船に乗りたい」という願いを、その4か月後に叶えます。

「2度目に松山に来たとき、『やったー』とバンザイしました。なぜか、帰ってきたという感覚だったのです。いろんな場所へ行きましたが、こんなことははじめてでした」

それから年5、6回のペースで松山へ旅行し、そのたび、目的地まで車に乗せていってくれたり、あたたかく接してくれたりと、やさしさに頻繁に出会います。

「これまで経験したことのないような親切が続くので、わたしは『松山ミラクル』と名づけて家族とか同僚に、その話をしながら松山のPRを勝手にしていました」

まさかじぶんがなるとは思わず。

漠然と「ここに住みたい」とは思っていたものの、50代を超え、職もつてもない育代さんにとって、現実味の薄いものでした。

まずは転職するため、2019年春、会社に辞意を伝えます。マンションも売りに出し、退路をたちます。

職探しをしていたときに知ったのが、地域おこし協力隊制度。ウェブ上で調べてみると、松山市(北条)が募集しているのを見つけました。その募集要項は「北条の魅力を、SNSをつかって発信する」。大阪・梅田でその説明会があると知り、迷わず参加します。

「年齢制限もなく、フォロワー数も問わないというのです。協力隊という制度は知っていましたが、若くて体力があるか、若くなければ特殊スキルがあるひとがなるものだと思っていました。ただ、北条が好きということだけ伝えました」

書類審査と面接の結果、見事に合格します。

「まさかじぶんが、と喜びよりも驚きのほうが上回りましたが、縁だけは自信がありました。縁と受け止めて、1ヶ月後の移住と着任にむけて、感慨にふけるまもなくバタバタと準備をすすめました」

住んでわかる、本当の北条の魅力。

着任後は、”休眠中”だったSNSを再開。瀬戸内海の夕景や山裾の風景など、愛媛のひとでも写真であまり捉えられたことのない、うつくしい景色をスマホで撮影(下の画像は杉山さんが撮影。瀬戸内海と鹿島)。その影響で、個人アカウントのフォロワー数も3か月で100人以上も増加。着実に北条のPRをしています。

ただ、寝ても覚めてもSNSのことばかり考え、体調を崩したときも。ピンチのときにこそ、北条のひとたちの本当の懐の深さ、やさしさを、身を持って感じたそうです。

育代さんの職場は、松山市役所の北条支所。その隣には、週に3回は通う老舗の飲食店があります。

ひとり、よその地で奮闘する心情を思い、サッと惣菜を手渡してくれたり、地域のひとが、育代さんのPRチラシをこっそりと作成し、職場の机に置いたりしてくれたことも。

「目線や表情で気遣ってくれるのが、とてもわかります。いままで味わったことのない地域のやさしさは、ありがたくて泣けてくるほどです。住んでからのほうが、旅行したときよりも感動が上回っています。この感動をどう伝えたらいいのか、昼夜考えています」育代さんが、地域に愛情をもって、日々奮闘しているからこそ生まれる気遣いでもあります。

「体力的な限界はもちろんありますが、ひとりでできることも限界があります。わたしが火種になることで、北条のひとたちが、みずから地域のことを考えて、行動するようになることが大切です。わたしが無事役目を務めることで、協力隊になるのをあきらめているひとでも、地域に愛情を持っていればチャレンジできると思えるような、足跡を残せたらうれしいです」

地域のひとたちと育代さんがつむぐまちづくりの物語は、まだほんの序章。北条の魅力が、育代さんの愛情で色鮮やかに、引き出されていきます。