かっこいい島のおばあちゃんを目指して

今治市 地域おこし協力隊 山之内由香さん

今治市地域おこし協力隊 山之内由香さん

 伯方島(はかたじま)は、しまなみ海道の四国側から2番目に位置する、面積 20.93 ㎢ 周囲 53.5 ㎞の島だ。
 桜の名所として知られる開山公園や、船も折れるほどの潮流が川のように流れることから名付けられた船折瀬戸などの自然溢れる絶景スポットや、ドルフィンファームしまなみなどの観光施設のほか、産業のひとつとなっている造船工場などもある。

 そんな伯方島で地域おこし協力隊として活動しているのが、山之内由香さんだ。

ちょうどいい島、伯方島

 山之内さんは、愛媛県松山市出身。
 趣味だった海外旅行でアジア各地を周るなか、とくに気に入っていたのがタイだった。そこで出会ったマッサージに惚れ込み、自分でもできるようになりたいと教えてもらった。帰国後、仕事にもできるよう資格を取る中で、海があるところ、どこかの島で自分の店を開きたいと考えるようになったという。

 出身地である松山市にもアクセスしやすい、四国からつながる島々を候補として移住先を探す中、出会ったのが伯方島だった。ちょうどいい大きさ、橋がつながっている安心感、ほどほどに生活環境が整った町具合。すべてがちょうどよく、惹かれたという。

「どんなに便利でも、大きすぎる島は海を感じられないなと思って」

 オンラインで開催されていた移住フェアをきっかけに地域おこし協力隊という働き方を知り、今治市ではフリーミッションの募集があったことも決め手になった。

 移住してすぐは、コロナ禍だったこともあり、地域の人たちとの交流はすんなりとは進まなかったが、できることなどを書いた自己紹介シートを配ってまわり、自分を知ってもらいながら地域の人たちと関係を切り開いていった。
 自己紹介シートにも書いていた、”ストレッチ教室ができる”、というところがフックとなり、着任まもない6月には教室開催の要望があったという。月に1度、8人程度の少人数ではあるが、今に至るまで毎月続いているというから驚きだ。
 声がかかったところに顔を出すうち、社会福祉協議会のサロン、児童館、老人クラブなど、関わる人や活動場所はどんどん広がっていった。

なんでもできる島の人に憧れて

 山之内さんの活動は多岐にわたる。
 月に数日、事務作業に充てる日以外は、ほぼ支所の席にはおらず、伯方島内を駆け回っているという。
 もともと資格を持っていて任期後の生業にもつながるマッサージやストレッチの教室だけでも複数箇所で定期開催され、そのほかにも竹を切るところから始まるメンマづくり、猪の捕獲や解体、児童館などでの子ども向けの企画の運営、B&Gのカヌー教室やイベントのスタッフなど、ソフトからハードまでその活動の幅は際限がない。経験を生かしてできていることもあるが、島に来てから初めて取り組んだり、研修受講や資格取得を通して身につけた技術も多い。

「知らないこと、できないことを少なくしたいんですよね」

 地域の人たちの関係が広がるとともに様々な依頼が舞い込むようになるが、依頼があったことは、とりあえずやってみるのだという。やってみてできなければやめたらいい、とまずは取り組んでみると、たいていのことはできていく。

 島に来て、地元の方たちのなんでも自分たちでやってしまうパワフルさに圧倒された。薪が必要だからチェーンソーを使う、草が生えるから草刈をする、というように、必要だからやる、と当たり前にこなしていく”生きる力”に惹かれた。

「30年経った時に、あのおばあちゃんすごいって言われるおばあちゃんになりたいんですよ」

 そう語る山之内さんは今年、猪の捕獲罠の資格やユンボの資格、水上バイクを運転できる、特殊小型船舶操縦士も取得したそうで、できることは日々着実に増えている。

 昨年取り組んだ活動のひとつ、360度の大パノラマが広がる宝股山の整備も、はじまりは余っている板を何かに活用できないかと持ち込まれた相談からだったという。
 看板を作ってはどうかと考えた企画は、半年がかりの大プロジェクトとなった。老人クラブの人たちとの草刈りなど登山道の整備から始まり、子どもたちと協力しての看板づくり、設置まで、地域の人と一緒になって取り組んだ。
 昔は遠足で登るのが恒例となるなど愛されていた山だけに、綺麗になったことや看板の設置を喜んでくれる人が多く、久しぶりに登った報告をしてくれた人もいたという。

この島で、やりたかったことを形に

 活動2年目、新しくやりたいことも増え、暇になることはなさそうだと笑う山之内さん。
 今準備しているのは、美しい海に囲まれた伯方島を巡る時に景色が見えるよう、竹や木の伐採をすることだという。そのためにチェーンソーも使えるようになった。

「景色が綺麗なので、それを見えるようにしたいんです」

 山之内さんの行動のきっかけは、いつもシンプルだ。だからこそ、課題にひとつひとつ向き合い、その企画だけでなく、自分自身も動くことで解決に繋げていく行動力に脱帽する。山之内さんがそこまでやっているなら、と一緒に動いてくれる人、動くことはできないけれどサポートをしてくれる人が広がっていくのも納得だ。

 地域のためにできることに邁進してきた山之内さん。協力隊としての任期が折り返し地点となり、任期後の準備も少しずつ始めている。
 もともと、任期後にやりたいことは当初の予定から変わらず、マッサージのお店と、ペットも泊まれるゲストハウスのふたつだ。山之内さん自身も犬と一緒に移住をしており、ペットと共に移住を考える人、旅行をする人の力にもなりたいのだという。

「自分一人でできる、小さな規模でやっていきます」

 できることを、できるかたちで。地道に島の人たちと関係を築いてきたからこそ、協力隊の間も任期を終えてからも、サポートしてくれるひと、応援してくれるひとはたくさんいるだろう。
 できることの幅をどんどん広げてきた山之内さんが、今後どのような島の人になっていくのか、どんな形で目標を形にしていくのか、これからが楽しみだ。

山之内さんの活動を見てきた伯方児童館の職員さんと