人と人とをつなぐしごと、つながる暮らしは豊かです。

地域おこし協力隊OB 「古民家ゲストハウス&バー 内子晴れ」経営 山内大輔さん

神奈川県横浜市出身。大学を卒業後、2年間会社員をしたのち、40カ国ほど旅をする。宅配便の配達員を経て四国遍路の旅へ。2014年内子町へ移住し、3年間地域おこし協力隊として活動。「アソビ社」を起業し2017年、ゲストハウスを開業する。

工芸や祭りなどの伝統がいまに受け継がれ、文化の香りが濃い愛媛県内子町。横浜市出身の山内大輔さんは、このまちの地域おこし協力隊を果たしたのち、「古民家ゲストハウス&バー 内子晴れ」をオープン。多彩なイベントを打ち出すなど、ユニークな仕掛けで県内外から注目を集めています。

スペイン巡礼、四国遍路が人生を変える。

旅好きという大輔さん。きっかけは大学時代、友人と行ったイタリアの卒業旅行でした。文化やことばのちがう環境に身を置くおもしろさを味わいます。

就職して2年で資金をそろえ、24歳で退社しバックパッカーの旅へ。旅のハイライトは、世界各国のひとたちが往路と復路で行き交う「スペイン巡礼」でした。

毎日30キロ以上歩く過酷な環境のなかで、見知らぬ者同士、自然に助け合います。ギブ&テイクではなく、ギブしかない世界。人と人との間にある温かいつながりにまみれ、人生観が変わっていきました。

巡礼では、その後の生き方を左右する出逢いもありました。仲良くなった、お遍路の格好をしていた少年から四国遍路の話を聞き、興味を持ちます。アルバイト生活を経て、29歳で四国遍路をめざします。そこには、忘れかけていたスペイン巡礼中の「ギブの世界」が広がっていました。

「地元のひとたちが、車を停めて飲み物を差し出す。それが当たり前で。家に泊めてくれたり、地域のおばちゃんたちがごはんでもてなしてくれたり。歩くうちに、四国に移住しようと思いました」

横浜に戻り、移住のタイミングを図っていたところ、あるテレビ番組で、人と人とをつなぐ仕組みをつくって、まちづくりをするコミュニティデザイナーの取り組みを知ります。「ぼくもこんなことがやれたなら」との想いが生まれます。

関連の本を読んでいるとき、地域おこし協力隊の制度があることを知り、「これだ」と直感。ちょうど近くに開催される愛媛の説明会に参加し、お遍路のときに踏み入れたうつくしい景観の内子町に応募。2014年、移住しました。

地域にじぶんの好きな場所をつくる。

大輔さんの担当地区は、中心地から車で約30分の、里山が広がる小田地区。まずは、一軒一軒、住民の家を訪ね、顔写真付きの自己紹介文を手渡すことからはじまりました。

協力隊をする上で、「頼まれものは断らない」と決めていました。祭りの鬼役から農作業までなんでも引き受けて、信用を培っていきます。

地区を網羅していくなかで、景色や雰囲気がとても好きな集落ができます。20人ほどの集落で、好きな景色のなかでやりかった農業をはじめ、頻繁に通うように。地域の深部にもぐっていきます。

「だれを連れていっても喜ぶロケーションで、外からひとを呼び込む仕掛けをつくろうと思いました。ところが、集落のひとは『ここには何もない』というのです。『マップをつくろう』と提案したけれど、関心は薄くて。でも、他の視察に連れて行くうちに、“わが地域”の魅力に気づきはじめるんです」

大輔さん主導ではじまったマップ制作は、地元の住民からの意見やアイデアに押されるかたちで完成。マップができたことで住民の意識が高まり、住民自ら、あちこちに花を植えたり、見晴らしのよい場所に住民手づくりの休憩小屋をつくったりと、ちいさな変革が生まれていきました。

古民家との出合いがしごとを決める。

一方、大輔さんは、みずから、空き家を調査し、移住希望者に貸す仕組みもつくっていました。協力隊になって2年の終わり、移住希望者の家探しをしているとき、町並み保存地区にある築100年を越える古民家に出合います。

視察した瞬間、「ここでゲストハウスをやったらいいだろうな」とひらめきます。世界のゲストハウスを経験してきたからこそ、宿に起こる交流、新しい風がこのまちに必要であることを、感じていました。

当初、自分でする予定はなく、ゲストハウスを経営してくれる移住者を呼び込もうと考えていました。でも、計画を進めるうちに、自分がやろうと気持ちが変わっていきます。「これから移住してくる人よりもこの地域のことを知っているから、案内もできるし、やりたい仕事よりも、向いている仕事をしようと思ったのです」

開業するなら、宿の機能だけでなく、人と人とをつなぐ場所にしたい、その可能性をかたちにできる場所にしたいと考えた大輔さん。建築家やデザイナーなどメンバーをそろえ、運営母体となる「アソビ社」を起業。詳細の事業計画を練り、クラウドファンディングなどでの資金集めに奔走。「休みはほとんどなかった」という多忙な1年半を経て、「古民家ゲストハウス&バー 内子晴れ」は2017年11月、オープンしました。

地域のよさを知ってもらう機会になればと、地元住民と旅人が交流できるようにバーを併設。地元の工芸品や加工品など、見知ったつくり手たちの“いいもの ”を紹介するイベントやスペースも設けています。

「内子晴れをベースに、内子のもの、愛媛のものなどの魅力を発信しつつ、内子に来てよかった、愛媛に来てよかったと思うような独自のツアーもつくっていきたい」と大輔さんは先を見据えます。

内子の中心地で働くいまも、山深い小田地区で暮らします。

「四季折々、風景に変化があって、それを日々感じるのも、地域の商店のひとと交わす、何気ない会話のある日常も、とても気に入っています」

人と人とをつなぐしごと、人と人とのつながりを感じる暮らしで編まれた日々の豊かさを、大輔さんの柔らかな表情は、無言のうちに語っていました。