空き家問題に取り組む。ゲストハウス開業を準備する。

上島町島おこし協力隊 平田浩司さん

 愛媛県内で活動する地域おこし協力隊を紹介する連載、前回に引き続き今回もインタビューではなく、協力隊ご本人による記事となっています。複数の島々からなる上島町で島おこし協力隊として活動する、平田さんです。

自宅近くの浜都の海岸で。

 私は令和2年4月より上島町で島おこし協力隊として勤務しています。移住相談窓口など移住・定住促進と空き家バンクの関連業務を担当しています。本稿を書いている令和3年9月の末日でちょうど、3年間の任期の「折り返し地点」に到達します。

 ここでは、①私が感じている上島町の魅力、②取り組む空き家の問題、③任期終了後の生業として準備を始めたゲストハウスについて、お話しさせていただきます。

下弓削区の中心エリア。正面は象徴的な石灰山。

終業後、堤防に腰掛けビールを飲む、至福の時間。

 これまで、社会科学の研究者、地域紙の記者、業界誌の編集者として、論文や記事、マーケティング・レポートを書いてきました。地域や業界の問題解決を目指すことを仕事としていましたが、その際に記述の対象となる社会を切り取る際の「境界」についても考えてきました。

 そして、仕事上での付き合いだけではない「人との関わり」を求め、地方で暮らそうと思い立ちました。しかし、地方社会も多層的、重層的です。そこで、自然地理が明確なフレームを与えてくれる離島での暮らしを選びました。

 私は今、瀬戸内海にある弓削島に住んでいます。弓削島を含む上島町は愛媛県に含まれていますが、大きなスーパーやホームセンターに行くときには、フェリーに乗り因島へと渡ります。因島は広島県尾道市です。「生活圏に隣県が含まれている」という生活も、人がつくった境界を相対化しているような気分になり、今の暮らしで気に入っているポイントです。

 協力隊としての勤務では、移住相談窓口を担当していることもあって、平日は基本的に毎日、弓削の役場に出勤します。仕事が終わるとたいてい家の前の堤防に腰かけて、夕陽を映した雲、その雲を映した水面を眺めながら、妻とビールを飲んでいます。この時には社会課題のこと、そして社会の境界の在り処については、遠くを行く船や、時折、飛び跳ねる魚、着水する鳥、顔を出してはすぐに隠れるカニなどに気を取られ、完全に忘れています。

魚島での空き家調査の様子。平成2年12月。

空き家問題解決に向け、全戸調査を実施しNPOを立ち上げました。

 弓削に来て、下弓削の浜都(はもと)地区の家を借りて住んでいます。家から役場までの所要時間は、歩いて7~8分ほど。来てからまだ1年半ほどしか経っていませんが、この間に、通勤ルートの途中だけで4軒の家が取り壊されて更地に変わりました。

 最近また、ゴミ出しの日に通る別の通勤ルートの途中にある大きな家の解体作業が始まりました。この家は2012年に実施された調査プロジェクトで調査対象となった古民家のうちの1軒で、その竣工は1906年と当時の報告書に書かれていました。

 築年数が古い家は、人が住み続けていないと、あっという間に状態が悪くなっていくようです。築年数が浅い家であっても、ひと夏で庭を雑草が埋め尽くすようになり、何年か放置されれば建物を植物が覆ってしまって、建物が見えなくなることもあります。

 上島町で私は、利活用可能な空き家の量的な現状把握を目的とする全戸調査を実施するなど、空き家の問題に取り組んでいます。使わないのならば、廃屋となり更地に戻す前に、「売ればいいのに」「貸せばいいのに」と思うのですが、町内の空き家の数は増える一方です。

 このほど、空き家の問題に特化したNPO法人「かみじま町空き家よくし隊」を立ち上げました。協力隊の活動期間が終わっても、このNPOを通して、町内にある一軒一軒の空き家と向き合っていくつもりです。

上島町で開催した今治市の協力隊との合同研修会での記念撮影。令和2年10月。第3回「せとうちラインin上島町」

「拠点」としてのゲストハウス実現に向け、準備をしています。

 「自分の拠点」を持つことに憧れています。これまでずっと、住んでいた家はすべて借家でした。自分のお店を持ったこともありません。

 ゲストハウスは、私自身の活動拠点ではありますが、ゲストが泊まっている間は、上島町におけるゲストの拠点として機能します。旅の間、ゲストにとって、ワークプレイスでありサードプレイスであり、様々な活動の拠点となるような、そんなゲストハウスを目指します。私自身が泊まりたくなるような、そして、ずっとそこにいたくなるような建物と空間を心に描いています。  

 八幡浜市に「コダテル」というコワーキングスペースがあります。「みんなで企てる、ヒミツキチ」がコンセプトです。このコンセプトには、痺れました。

 ゲストハウスをつくりたい、というよりも、ゲストや地域社会、そして私にとっての「拠点」、あるいは「秘密基地」をつくりたい。そんな我儘なモチベーションでゲストハウスをオープンさせて、経営的にやっていけるのか?そんな不安を感じる瞬間もありますが、旅人と地域の皆さんが交差するネットワークがこの拠点から町内に、そして町域を越えて拡がっていく様子を想像すると、ワクワクが止まりません。

 上島町は離島の島々で構成されています。それらの島々に小さなゲストハウスが点在し、それぞれがプロジェクトの拠点となり、町の内外へとダイナミックにネットワークを構成していく——。

 今、そんな未来の実現に向けて、準備をすすめています。

生口島、因島越しに見える上島町の島々。
しまなみ海道をサイクリング。
上島町HP https://www.town.kamijima.lg.jp
上島町島おこし協力隊Facebook https://www.facebook.com/shimakurashi/