このまちに、若者を受け入れるうつわをつくりたい。

東温市地域おこし協力隊 井川友梨香さん

舞台芸術の聖地を目指し、アートを活用したまちづくり「アートヴィレッジとうおん構想」を進める東温市。中山間の活性化をミッションとした地域おこし協力隊に加えて、2017年から芸術分野にかかわる協力隊の募集を開始した。アートヴィレッジとうおん構想のさらなる推進に、若者独自の新たな視点をもたらしているのが、2020年に地域おこし協力隊に着任した井川友梨香さんだ。

高卒で、ひとり知らないまちへ

岐阜県出身の井川さんは、高校卒業後、2020年9月から東温市地域おこし協力隊に着任し2年目。現在、19歳。県内でも最年少の協力隊だ。

小さい頃からファッションや舞台などクリエイティブなことに興味があった井川さん。アパレル分野に関わるために、東京の専門学校への入学も決まっていたが、学費やコロナ禍での生活を考え、迷っていたという。

移住のきっかけは、母が見つけたTwitterの投稿だった。

偶然フォローした東温アートヴィレッジセンターのアカウントで、受講生募集の投稿がタイムラインに流れてきた。とうおん舞台芸術アカデミー。歌やダンス、演技などの専門家のレッスンを基礎から受けられる講座である。申し込みを検討し、東温アートヴィレッジセンターに問い合わせたことをきっかけに、東温市でアート分野の地域おこし協力隊を募集していることを知る。

2018年にオープンした東温アートヴィレッジセンターでは、年間を通じてさまざまなイベントが開催されている。

「とうおん舞台芸術アカデミーに通いながら、松山で興味のあるバイトをするのもありだと思ったんです。」

と明るく話した。地域おこし協力隊のことは知らなかったが、中学時代に地元を盛り上げるための起業プロジェクトに参加したこともあり、「地域おこし」というワードには魅力を感じたという。

東温市はもちろん、愛媛県、四国を訪れるのも初めて。実際に来てみると、祖母の家のある大好きな飛騨高山の雰囲気と似ていたので気に入っている。お気に入りのカフェも、ネイルサロンも見つけた。知らない土地を歩くのは、刺激的でたのしい。

「愛媛のことは知らなかったけど、なんとなく少しあったかいイメージはあったんです。となりにある愛知県の『愛』が入ってるから親近感もあって(笑)」

予想していなかった、高畠華宵との出会い

移住してすぐ、市役所の方に案内してもらった高畠華宵大正ロマン館。一目見て、心を動かされた。すでにアートヴィレッジとうおん構想とのつながりのあった市内唯一の美術館だ。東温市に来るまで高畠華宵のことは知らなかったが、どこか男らしくない華宵の描く少年の絵に一気に惹かれた。

華宵との出会いが、現在の協力隊活動にもつながっている。「若者にもっと認知されてもいいはず。」「韓国ブームの次は、華宵ブームを起こしたい。」そんな考えも浮かび、東温市の主催するマルシェ「ほっちょ市」では、大正ロマン館のブースを構えて、グッズ販売も行った。

大正から昭和初期にかけて、「少年俱楽部」などさまざまな雑誌の挿絵を描き、全国にファンも多い高畠華宵。東温市の方に、この美術館の魅力があまり知られていないのはもったいない!と感じ、自ら行動に移した。

流れるようなタッチで描く、中性的な少年少女の絵が特徴だ。

このまちで、クリエイターを発掘したい

今年度、自身がプロデューサーとして初めて企画する「Sync 20‘s」は、華宵の活躍した大正時代と令和の現代とのシンクロがテーマだ。

「Sync 20‘s」とは、とうおんアートヴィレッジフェスティバルの一環として、若い世代のクリエイターやアーティストに作品制作と発表の場を提供する公募展。「2020年代と1920年代のシンクロニシティ(共時性)」をテーマとした作品を公募している。

1920年代のアートや社会情勢の要素と、その100年後、2020年代の今を生きるクリエイターを同期させることで、新しいものが生まれるきっかけをつくりたい。また、応募してもらったクリエイターの将来にも繋げられたらと考えている。

協力隊の事務所は、東温アートヴィレッジセンター内に設置されている。

現在の活動は、東温アートヴィレッジセンターのスタッフをしながら、とうおんアートヴィレッジフェスティバルの企画を考え実施することだ。今年度の企画を進めながら、すでに来年度の企画を考えなければいけない。

慣れない事務作業など仕事の進め方に悩むこともあったが、同期の協力隊や先輩、市役所の方に支えられ、多くを学べている。任期後も自分から企画提案できるよう、この場所でアイデアを形にする力を身につけていきたい。

彼女に期待されているのは、地域に若い世代を呼び込むことだ。「東温市で次世代のクリエイターを発掘する」というコンセプトを軸として活動している。

「市がアートに手を差し伸べてくれるのは力強いです。舞台芸術やアートって、そもそも触れていないからわからないことが多いので。魅力に気づくきっかけや、若いクリエイターの活動の場をつくりたいです。その器がここ(東温)にはあると思うんです。」

市の学校協働活動サポーターとしても、地域の子どもたちと交流している。

最近のたのしみは、地元の小学校の放課後子ども教室だそう。知らない土地で友だちもゼロからのスタートだった。仕事でも自分より若い人と関わることはほとんどない。子どもたちと関わる時間は、大切な心の支えになっている。これから活動を通じて、同世代の仲間も見つかるとうれしい。

「移住前から考えていたファッション関係のこと、東温で出会った華宵さんのこと、子どもたちの教育に繋がること。やりたいことはたくさんあります。3年間の中ではやりきれないかもしれないけど、まず目の前のことに集中して、自分のできることを増やしていきたいです。」

東温アートヴィレッジセンターHP
Sync20's HP