俳優と、地域おこし。二足のわらじ、二拠点だからできること。

東温市地域おこし協力隊 原真礼さん

愛媛県の中央に位置する東温市は、その土地の7割以上が山間部であり、石鎚山系の清らかな水と肥沃な土壌を活かしたおいしい米や麦などの農作物や地酒などの発酵食品の産地として活気づいている。また、県都松山市に隣接し、街なかの便利さと田舎の自然豊かさが混在している都市近郊田園都市である。このまちで、観光振興をミッションに地域おこし協力隊として活動しているのが、原真礼さんだ。

きっかけは、ミュージカル出演

千葉県出身の原さんは、東京を拠点に舞台俳優として活動していた。東温市にあるミュージカルの常設劇場「坊っちゃん劇場」での公演への出演がきっかけで、2020年3月から、愛媛と東京を行き来する生活に。しかし、コロナ禍で出演予定の舞台は2ヵ月の延期。県境をまたぐ移動も困難となった。

密にならないように、人に会わないようにと、悶々とした日々が続く中、自身のモチベーション維持のために、近くの山に登ったり、気分転換に散歩をしたり、東温市の自然を散策して過ごした。その期間は自宅で過ごす時間も多かったため、山で摘んできた花を押し花にしたり、アクセサリーをつくったり、お茶にしてみたり・・・実験の日々だったという。

坊っちゃん劇場公演「鬼のレクイエム」にポチ役として出演

公演が開幕し、東温市の観光大使にも任命されたが、俳優をやりながらできる観光大使としての仕事はほとんどなかった。

「東温市にはこんな素敵なところがあるのに、何もできていない・・・」


新型コロナウイルスの感染拡大による影響もあるが、俳優という立場で舞台に出演中に東温市のためにできることには制限があり、もどかしさを感じていた。そんな中、唯一取り組めたことが共演している俳優に向けた東温市の観光ツアーの実施だった。人と会うこと、来てもらうことはできなかったが、普段から顔を合わせている内輪のメンバーへ向けたツアーを実施することはできた。これを機に、東温市の魅力を再発見し、もっと知ってもらいたいという気持ちになった。そんなときに紹介してもらったのが、東温市の地域おこし協力隊だった。

協力隊になる前から、俳優仲間とともに東温市の発信を行っていた

俳優活動と地域おこし、とにかく模索の日々


俳優としての拠点は東京だったため、それをやめて東温市に移住する決心はつかず、一度は協力隊への申し込みを躊躇ったという。「観光振興という意味では、逆に東京にいたほうがいいタイミングもあるかもしれない」という市役所の方の言葉に、俳優活動と地域おこしの両立を視野に入れた。

東温市のゆるキャラ「いのとん」と、活動拠点「さくらの湯観光物産センター」

そうして原さんが着任したのは、観光振興担当の地域おこし協力隊だ。東温市観光物産協会の運営する「さくらの湯観光物産センター」を拠点とした東温市の観光物産のPRが大きなミッションのひとつ。しかし、東温市では前例がなかったため、最初はとにかく何ができるのかを模索する日々だった。地元のものを使った体験イベントやアートと自然の融合をテーマとした発信など、自らたくさんアイデアを出し企画してきた。

「良くも悪くもゼロからのスタートだったので、どんなことがやりたいか考えました」

東温市に来て、自然にはコントロールできない、計算できない美しさがあり、人間もその自然の一部であることを感じた。ただ綺麗な自然だけを撮るのではなく、かといってモデルがありきではない。「人間も自然の一部である」というコンセプトを大切にしている。

原さんの積極的な発信をきっかけに、共演している俳優も興味を持って各自のSNSなどで東温市の魅力を発信するようになった。それによって、劇場での観劇を目的に来たお客さまが東温市内の飲食店や観光地を訪れるようになり、さらにそのお客さまによる発信や口コミで広がる、という好循環が生まれた。

東温市の地域の伝承をモチーフにした舞台作品にも役者として出演した

3年間で、成果が見えなくてもできることを

地域おこし協力隊と俳優の両立によるメリットは大きいが、やはり多忙な日々である。

「観光振興って、勉強していると、だいたい早くても5年から10年でやっと光が見えてくる世界らしくて・・・」

1年間活動してみて、まだまだ東温市やさくらの湯観光物産センターの知名度が低いことを痛感したという原さん。自身のできる形を常に探し、県外や全国だけでなく、ネットを通じた海外への発信も地道に行っている。しかし、何か結果を残すには任期3年間では足りない、もっともっと時間が必要だと感じた。

野外の青空のもとで行ったストレッチ教室は、「自然の中で心と体に向き合う」というやりたかったイベントだ。地元の人は何もないというが、行けば素晴らしいところがたくさんある。素晴らしい活動をしている方がたくさんいる。企画を通じて、そういった様々な発見があり、新たなつながりもできた。

俳優としての自分を知っている劇場のファンの方も参加してくれているが、それだけではいけないと感じている。もっと知らなかった人に知ってもらう機会を作りたい、という思いで続けている。

東京と行き来している外から来た自分だからわかる。自然に触れあいながら過ごしていることで、忙しい日々でもフラットに戻れるという魅力がここにはある。

観光客の増加というわかりやすい数字にはすぐ表れなくても、活動を通じてゆっくりと伝えていきたい。