また来たかった場所、八幡浜市高野地へ


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八幡浜市地域おこし協力隊 田川 花月光さん

 八幡浜市(やわたはまし)は、愛媛県の西端にある佐田岬半島の付け根に位置する市。北に伊予灘、西に宇和海を望み、急傾斜が海岸に迫る地形で平坦地が少なく、岬と入り江が交差した、独特の風景が広がっている。温暖な気候と地形を生かした柑橘栽培が盛んで、温州ミカンは質・量ともに全国有数の産地。「日の丸」「真穴」「川上」「蜜る」など全国に知られたブランドミカンを生産している。八幡浜港は天然の良港として栄え、四季折々たくさんの種類の魚が水揚げされ、活気にあふれた市場風景と産直市場、食堂やお土産品が集まる「八幡浜みなっと」は市の名所となっている。その港から車で20分程山道を上がっていくと、標高300メートルの場所に八幡浜市街地と宇和海が一望できる四季百果・天空の里と言われる高野地(たかのじ)地区があり、この高野地地区に、地域おこし協力隊として着任したのが田川 花月光(たがわ はつひ)さんだ。

みんなの末っ子、はっちゃん。

 彼女の活動拠点は、ミカン畑の中にある小さな公民館。入口には、在室中の旗が立っている。

「集落のどこにいても、はっちゃんがいることが分かるようにと、地域の方が作ってくれたんです」

 本当は、長女でしっかり者の田川さんだが、ここ高野地では末っ子はっちゃん。初めて、協力隊員を受け入れた地元の皆さんの嬉しさが伝わってくる。取材中も、向かいの柑橘畑にいる女性陣から声をかけられ色々相談したかと思えば、地域の男性陣が、集会の準備に公民館の中へと続々と入っていく。彼女はみんなに囲まれながら協力隊活動をしている。それだけでなく、住居はなんと廃校の元職員室。他の教室は柑橘アルバイターの宿泊所や、高野地フルーツ俱楽部の工房として使われている。彼女は、フリーミッションの中で、高野地の広報・PRを行うことを選択し、様々な活動に取り組んできた。

 そんな地域の皆に愛されているはっちゃんこと田川さんが、この地の協力隊になったのは、ちょっとした偶然からの始まりだった。

きっかけは、移住体験ツアー

 大学生だった田川さんは、キャンパスで1冊のフリーペーパーを見つける。関東圏の女性向けのフリーペーパーだ。持ち帰っていたその冊子には、八幡浜市の移住体験ツアーの広告が掲載されていた。

「部屋を片付けるタイミングで、パラパラとめくり募集に目が留まりました。半年前に見た時にはその記事に気づかなかったんです。このタイミングで今回の募集に目に留まったということに、何か呼ばれたようなご縁を感じました。山と海と島と自然に囲まれたところ・・・いいなぁ。〆切間近かぁ。そう思い応募したら、当選しました。」

 この頃は、自分が将来やりたいことが明確になっておらず、就活はひとまず置いて卒論に専念しようと考えていた時だった。このツアーに参加したら、何か今後についてのヒントを得られそうだとピン!と来たのだとも話してくれた。老後は自然に囲まれたところで自給自足の生活がしたい、とも思っていた田川さんにとって、理想の生き方を探す絶好の機会だったのかもしれない。

 そして1泊2日で八幡浜市を訪れた。市内観光の後に、山コースを選んだ彼女は高野地にやってくる。梨狩り・葡萄狩り・マーマレードを使った料理教室。終わったら集荷所で御神楽をみて、交流会。たった6時間の滞在だったが、高野地での体験や出会った人々は、彼女の中に強く印象に残ることになる。最後の交流会で、テーブルを共にした喜代一さんとかよちゃんご夫妻は、山にいるのにわざわざ新鮮でおいしい海の幸を用意してくださり、歓迎されていることに驚き、嬉しかった。今では釣りに連れていってくれたり、いろいろな相談に乗ってもらったりと、心を支える存在になっている。

清水喜代一さんと清水香代子さんご夫妻

「高野地に、また来たいと思いました。明るく楽しい皆の仲間になりたい、皆と一緒に暮らしていきたい。そのためにはどうしたらいいんだろう?」

 その後なんども都内での移住フェアや相談会、交流会に出向いた。八幡浜と名の付くイベントには参加し、その思いを伝える中で、高野地での地域おこし協力隊のエントリーが現実味を帯びてきた。是非着任したい。やりがいがありそうだし、地域の役に立てたら嬉しいという気持ちを抱くようになる。

「今まで高野地のような場所があることを知らなかった事が、自分の人生でもったいなかったな。と思いました。まだ知らない人も、もったいない。皆に知ってほしいな。こんなにすてきな人達がいること、高野地という地域のこと。」

 その思いは、協力隊着任へと繋がっていった。

住んでみて、感じること。

 実際に地域の住民になって感じたのは、人間関係の濃度だという。生まれてからずっと一緒に育ってきた絆の強さ。都市部にはない関係の中にいると実感する。高野地は農家さんが多く、自然を相手にする中で培ってきた寛容性を持ち、地に足のついた生活をされている。田川さんは、そんな人々の営みの中に身を置き、理想の暮らし方に触れることが出来た。自然に囲まれた環境は、ごみごみしておらず、身を置いているだけで疲れる騒がしさもない。その代わりに目や耳に入ってくるのは、鳥のさえずり、葉っぱの刷れる音。

 「実家のある街に帰省する方が、実は疲れます。」

 自分の部屋から緑越しに海を見下ろせる環境。かけがえのない暮らしが出来ていることに、満ち足りて過ごしている。

宇和海を望む絶景。

わたしが高野地のためにできること

 新天地での協力隊着任。まずは、笑顔で元気に!を心掛けて様々な活動を行ってきた。廃校の小学校の畑を活用した「花いっぱい活動」や、子どもがワクワクする場所「こワク☆スペース」を開催し、新型コロナウイルスによる休校や夏休みの子どもたちの居場所づくりを行う。初めてのことにも積極的にチャレンジし、失敗するたび、周りの人のアドバイスを受けながら試行錯誤を重ねていった。ただ、コロナ禍であることは、活動の幅を狭めることになり、地域の行事や子ども向けイベント、地域の若者企画のイベントなどが、実施できないまま期間が過ぎていく。そんな中でも広く地域を知ってもらうために、外に繋がるチャンネルやパイプを作ることに注力し、方向性を定めていった。現在の彼女の活動の中心は、着任時から関わっている高野地フルーツ倶楽部の、マーマレードの販売促進と㏚だ。

 高野地フルーツ倶楽部は、約30年前、柑橘農家の女性たちが中心の、PTA活動から始まった。季節ごとに実る果実をジャムやシロップ漬けなどに加工しており、これまでは地元のイベントや文化祭などで販売を行っていた。転機が訪れたのは2019年。八幡浜市で行われた「ダルメイン世界マーマレードアワード」で、河内晩柑マーマレードが金賞を受賞したことを機に、2020年7月に企業組合となり、販路が広がったり新たに若いメンバーが増えたりした。彼女は着任時から商品製造や販売に携わってきたが、昨年は、オンラインショップの環境整備や郵便局での受注販売のサポートなども行った。農業のかたわら特産品加工をおこなう女性陣を縁の下の力持ちとして支えている。

「地域をもっと回り、足を使った活動をした方がいいのかもしれませんが、ずっと地域の方が育んできた活動や果物、そして加工品を通じて、高野地を広く伝えていくこと。それが今の私にできる大切なことだと思って、取り組んでいます。」

 今後も高野地フルーツ倶楽部での活動を通じて、沢山の人に高野地を知ってもらうためにHP制作やオンラインショップの運営をしたい。また、高野地のキャッチフレーズ「四季百果 天空の里」や、田川さんが惚れた地域の皆さんの人柄が伝わるようなPR動画も作成し、四季折々の高野地を感じてもらいたい。そうして、協力隊の任期を終えたいという。コロナによって、彼女の取り組みたいことも、変化していきながら定まっていったが【こんなにすてきな地域をしらないなんて、もったいない】の気持ちは、高野地の素晴らしさを誰かに届けながら、これからもずっと続き、根付いていく。

  • 高野地の風景(季楽の桜)