地元産ジビエを目指して。できることからどんどんはじめる。

伊方町地域おこし協力隊 伊勢 典昭さん

 四国の最西端である佐田岬半島に位置する伊方町は、北の瀬戸内海側はリアス式海岸を形成し、南側の宇和海側は、なだらかな白砂の連なる海岸が続いている。また、年間を通して温暖な海洋性気候に恵まれ、斜面を利用して作られる柑橘畑や風の力を活かす58機もの風力発電用風車が並ぶ姿など自然の雄大さを感じることのできる景色が広がっている。

 そんな伊方町で、2021年1月から農業振興分野の地域おこし協力隊となった伊勢さんは、農業振興の中でも特に鳥獣害対策に特化した活動をしている。捕獲だけでなく、その後の活用にも力を入れている伊勢さんに、現状や今後の活動についての考えを聞いた。

狩猟が活動内容の地域を選んだ

 北海道出身の伊勢さんは、青森県の会社員だった2014年、趣味でよく沢登りをしていた白神山地で、本来生息していないはずのニホンジカの目撃情報が増えてきたことで、このままでは白神が荒れるのではと考えるようになったという。

 そこで、狩猟免許を取得したものの、会社員と狩猟の両立は難しいことを実感。白神以外でも狩猟を必要としている地域で、狩猟で生活ができる場所への移住を検討することになった。そして、地域おこし協力隊として狩猟をする隊員を募集していた伊方町に移住してきた。

 移住してきた伊方町は、あまり暑すぎないし風がよく吹いているので過ごしやすく、雪も数回しか降らないため家族も気に入っているという。ただ、伊勢さんによれば、鳥獣被害はすでに深刻で、イノシシが主だが、実は鳥も多く、ヒヨドリやカラスによる被害も多いそうだ。

狩猟したあとのこと

 狩猟とセットで考えなければならないのは、狩猟した鳥獣の扱いだ。解体施設があれば、解体して流通させることができる。県内では、今治市大三島のイノシシや、松野町のシカがジビエとして有名だろう。

 伊方町には解体施設がないため、流通させることができない。伊方町としても、鳥獣害対策と狩猟は一体として考えているようで、自治体と協働して解体施設の新規設置を検討している。とはいえ、それは簡単に実現できる話ではない。施設や設備の設置に費用がかかるだけでなく、地域の理解や協力が必要不可欠だ。伊勢さんは、候補になる場所を探しては地域の方と丁寧な対話を重ね、解体施設の新設を目指してはいるものの、なかなか簡単には進まないのが現状だそうだ。

 協力隊の任期は基本的に長くても3年で、そのうちの1年がもうすぐ終わろうとしている。もうすでに時間との勝負になっていると語る伊勢さんの表情が印象的だった。

できることはどんどんやっていく

 狩猟と並行して、ジビエに関心のある人だけでなく、関心のない人に興味を持ってもらおうと、伊勢さんがチョイスした全国のジビエを扱うオンラインセレクトショップ「旅するジビエちゃん」を立ち上げた。これも活動の軸にしていくという。将来的には伊方町のジビエをラインナップに加えることが目標だ。

 伊方町の三崎港にある観光交流拠点「佐田岬はなはな」の支配人に話をして協力を取り付けたり、キャンプ場を整備している協力隊と力を合わせられる部分がないか模索したりと、とにかく伊勢さんの行動は早い。

 地域で獲れた鳥獣を、地域で活用するサイクルを作りたい。

 これまで捨てられていたものを売っていきたい。お金に換えることができれば、活用の幅も増えるし、狩猟をする人も増えていくと思っている。

 インタビューの帰りの道路でイノシシの足跡を見せてもらった。

 協力隊の任期と鳥獣害の拡大、あっという間に時間が経ってしまうと話す伊勢さんは、時間とも戦いながら確実に一歩一歩先へ進んでいる。