培った経験を活かし、ともに成長を目指す

鬼北町地域おこし協力隊 野口 貴博さん

 鬼北町は、全国で唯一名称に「鬼」の文字が使用されている自治体であり、日本最後の清流、四万十川の上流にあたる広見川を支流に持つ自然豊かな町だ。

 鬼北町にふたつある道の駅のひとつ、道の駅森の三角ぼうしを拠点に、地域の特産品を生かした新商品の開発に取り組んでいるのが、野口貴博さんだ。

外からではなく、内側からかかわりたい

 野口さんの出身は松山市。大学進学を機に愛媛県を離れ東京や大阪で働いた後、鹿児島県薩摩川内市の地域おこし協力隊を経て、愛媛県へUターン。松山市内で働いた後、令和3年の5月から鬼北町地域おこし協力隊として活動している。

 「自分も都会を離れてこういう景色の中で暮らしたい」

 大阪で働いていた頃、仕事で地方を訪れ、自然に囲まれた暮らしを見る中でそう考えるようになった。

 暮らしたい「地方」を考えた時、頭に浮かんだのは、母親の故郷であり子どもの頃によく訪れた、宇和島の景色。南予ののどかな空気、海が近くにある暮らしは、イメージする地方の暮らしの原点だった。

 「移住する以外になかなか訪れそうもない場所で働いてみたかった」

と鹿児島の離島、甑島(こしきしま)での地域おこし協力隊に応募。下甑島(しもこしきしま)に配属され、商品開発や観光振興など様々な活動に取り組む中で、飲食店の運営にも携わる。

 「できるかできないかではなく、やりたいことをやってみよう」

 そう考え向き合った下甑島での経験を経て、「食に関わること」が自分の得意分野であり、キーになるもの、と考えるようになった。

 3年間の協力隊活動を終えて松山市へ戻り、自治体と関わる仕事をしていた時に出合ったのが、鬼北町だった。町長の心意気や地域住民の要望などを聞くうちに、

 「この町に外から関わるのではなく中から関わったらおもしろいことができるのではないか」

と感じた。

「食」を通してできること

 自分のキーワードは「食に関わること」だと感じていた野口さんは、道の駅での商品開発というミッションは、得意なことを活かしながら地域の役に立てるものではないかと考えた。

 着任して一年弱、食品乾燥をメインに特産品開発を進めている。ドライにする野菜の種類や切り方など加工の仕方を工夫するほか、ドライベジタブルでピクルスやアヒージョ、四国西南地域特有の干し芋「ひがしやま」を作るなど、試行錯誤を繰り返している。ふるさと納税に向けたパッケージングの企画等を通し、商品そのものの開発だけでなく、組み合わせての企画やPRにも楽しさを感じている。

 また、これまでの経験を活かし、道の駅にあるレストランのコンサルティングにも関わっている。

 三角ぼうしは、観光客だけでなく地元の人もよく使う道の駅なので、野菜を買いに来る人や野菜を納品に来る生産者さんとのつながりもできてきた。

 松野町の地域おこし協力隊など、近隣地域との横のつながりも生まれた。協働で商品開発や地域の特産品のドライ加工、イベントでの試作品販売など、自治体を超えたつながりもできつつある。道の駅の加工場にある乾燥機を地域内外の商品加工で活用してもらうことで、鬼北町の特産品や鬼北町自体への関心が高まる効果もあると感じている。

自分ができることを活かして

 自分が厨房に立つ飲食店を持ちたい。調理をして食事を振る舞うことはもちろんだが、そこに移住や開業を目指す人が相談に訪れれば、自分の経験をもとにアドバイスや支援もできる。自身の店の運営だけでなく、ノウハウを活かした支援にも携わりたいと考えている。

 自分自身が飲食店の運営に携わった際、0から1を作り出す大変さを身にしみて感じた野口さん。だからこそ、自分の経験が役立つならば、これから飲食店の開業を目指す人に対し、必要な知識や踏み出すきっかけを提供していきたいのだという。

 自分だけでなく、同じ思想を持ち、様々な経験やスキルを持った人たちとともに、飲食店を開業したい人、新しいチャレンジをする人を応援する団体を作れないだろうか。

 移住して起業したいというニーズに対しても、「移住」「起業」どちらも経験した自分のノウハウを伝えることができれば、愛媛県や鬼北町へ人を呼び込むことにもつながるのではないか。 

 地域おこし協力隊としても、イベント出店などを目指す隊員の後押しができるのではないか。

 チャレンジの場となるようなイベントの企画をするのはどうか。

 できること、やりたいことはまだまだたくさんある。

 自身の中に培かってきたことを、自身の活動はもちろん、周囲にも活かすことで、野口さんの活動は大きく広がっていく。