瀬戸内海の真ん中から、まちに開かれた教育を

上島町島おこし協力隊 雫石 まどかさん

 はじめまして!

 2021年4月から島おこし協力隊として上島町に着任しました、雫石まどかです。上島町の7つある有人島のひとつ、弓削(ゆげ)に住んでいます。

 町唯一の県立高校である弓削高校と町が連携して行っている「弓削高校魅力化プロジェクト」のスタッフとして活動しています。主に、高校生のための公営塾「ゆめしま未来塾」の講師をしています。


地域の大人と高校生の対話イベント「トークフォークダンス」

自分軸ではたらく

 私が瀬戸内エリアへの引っ越しを考え始めたのきっかけは、2020年に新型コロナウイルスの影響で緊急事態宣言が出され、当時働いていた東京の会社が完全リモートワークに切り替わったことでした。もともとやりたい仕事ありきで東京に住み、すでに5年ほど経っていたので、東京にいなくてもその仕事ができるのであれば、そろそろどこか違う場所に引っ越してもいいかなと思っていました。仕事上のプレッシャーや多忙で少し体調を崩していた時期でもあったので、環境を変えて新しい気持ちで暮らしと仕事を立て直したいという思いもありました。

 そこから、東京の仕事は正社員から業務委託に切り替え、リモート&時短勤務にして、何か現地でできる仕事をもう1つする、というダブルワークのかたちを模索し、情報収集を始めました。いろいろ探しているうちに日本仕事百貨の記事を見つけ、瀬戸芸をきっかけに瀬戸内エリアにはよく通っていたこともあり好感を持っていたのと、公営塾の仕事は午後から始業という点でダブルワークもしやすそうだと思い、応募してみることにしました。

 上島町へは、採用が決まって引っ越しの際に初めて訪れたのですが、不便さをあまり感じることがなく、同世代の移住者も多く助け合うことができてとても住みやすいなと感じています。

公営塾開講中の一コマ

上島町の空気を感じ取る余白を大切に

 1日のスケジュールをご紹介すると、こんな感じです。

  12:00 車で弓削高校に出勤

  12:15-13:00 1日の予定、前日の生徒の様子などについて公営塾講師全員でミーティング

  13:00-15:30 役場で経理処理、企画書作成、イベント準備、会議など

  15:30-21:00 開講(教科指導、生徒の面談など)

  21:15 学校の施錠をして帰宅

 前述した東京の仕事とのダブルワークは2022年7月で終了したので、午前中は家の用事を済ませたり買い物をしたり、ゆっくり本を読んだり、自分の時間として確保しています。そろそろ任期終了後について準備していかなければいけないので、そのための情報収集や勉強の時間にも充てています。また、公営塾の仕事はフレックス勤務も可能なので、例えば午前中から働いて18:00ころに終業して、地域の方と近況を語り合いながら夕食を一緒に食べたりもしています。

 上島町では今、農業、福祉、教育など多岐にわたって新しいことをしていこう!という機運が盛り上がっている気がします。働き手世代がUターンやIターンで町に入ってきていることもありますが、複数の島ごとのコミュニティがある程度独立していることで、「〇〇島で△△さんはこんなことをしているみたい」といった情報が良い刺激になって、「じゃあこっちも頑張ろう!」という流れが生まれているように感じます。それは、上島町という町の地理的・文化的な特徴がうまく作用しているのだと思います。

町のクラフトイベントに公営塾として出店

次の一歩を町とともに

 私が参画している弓削高校魅力化プロジェクトでは、今後新しい動きがいろいろと予定されています。まず、2024年春には全国から弓削高校を選んで入学してくる生徒のための教育寮がオープンする予定です。上島町のゆかいな人々とのふれあいと、豊かな四季の移り変わりが近い暮らしと、全国の仲間と悩み合い支え合える住環境のもと、人間的に大きく成長する3年間を送ってほしいと思います。さらに、地域に開かれた高校づくりを加速させるにあたり、弓削高校と上島町では、『地域コーディネーター』という新しい役職の設置も検討されています。小さな離島に密着した高校であるからこそ、校舎の中だけで学びを完結させるのではなく、親でも先生でもない地域の大人との対話や協働をすすめることで、生徒にとっては教科書では得られない学びと町への愛着を育む時間を、地域の人々にとっては若者を応援し未来を語り合う機会を、創造していくきっかけづくりができればと思います。

 町内の子供の数は年々減り、高校生も少なくなってきています。地域から子どもが減っていく中で、学校とともにある地域の将来像を描けるかどうかは、何も上島町に限ったことではなく、全国の過疎地域が直面している課題です。すでに来ている超高齢化社会に寄り添う形で学校と地域の関係性をアップデートしていくことが、どの自治体にも求められていると思います。

 今のところ、任期終了後も一定期間は上島町に残り、もう少しこの刺激的な仕事に自分らしいかたちで関わることができたらいいなと考えていますが、それはまた別の機会にお伝えできればと思います。