島唯一の商いで、内と外をつないでいく。

地域おこし協力隊OG 今治市(大島)  千々木 涼子さん

北海道函館市生まれ。山梨県の大学で文学部に在籍。広告会社、大型書店で書店員として勤務後、夫と栃木県に移住。2017年、愛媛県今治市・大島へ再移住し3年間、地域おこし協力隊として活動。2020年4月、本屋と自家焙煎コーヒー店の『こりおり舎』を夫と開業。

「しまなみ海道(西瀬戸自動車道)」でつながる島のひとつ、愛媛県今治市の大島。今回紹介する千々木涼子さんは、この島で、地域おこし協力隊を経て、夫とともに「しまなみ海道」で、大島で唯一の、本屋と自家焙煎コーヒーのお店を2020年春、オープンしました。

お店をつくるステップで協力隊になる。

涼子さんは北海道函館市に生まれ、大学進学で地元を離れます。東京の広告会社で営業を経験したのち、函館市に戻り、大型書店の立ち上げに書店員として関わります。

「もともと本が好きで司書になりたかったけれど、本屋として商いがしたいと夢が変わっていきました」

その頃出逢ったのが、現在の夫。「コーヒー専門店をやりたい」という伴侶の夢を叶えるため、有名な古民家カフェがある栃木県に移住。2年目の終わりごろ、お店を開くための場所を探しはじめます。

海がある場所、温暖な場所、災害が比較的に少ない場所。それが夫妻共通の希望。もともと、地域おこし協力隊という制度を雑誌で知っていた涼子さんは、地域に根ざしながらお店づくりができるのでは、と協力隊として移住することを決意します。なかでも、課題をみずから選べる「フリーミッション」の地域を選び、条件すべてをクリアしていた大島へ2017年、ふたたび、夫妻で移住しました。

じぶんごとから、地域ごとになる。

着任したばかりの頃は、じぶんのやりたいことで頭を膨らませていた涼子さん。行事のサポートや地域の手伝いをしながら、「本を好きなこどもを育てたい」と月1回、読み聞かせの活動を自主的に開きます。

ところが、島のお母さんたちは働きに出ていて、集まるのは、まだ歩けない小さなこどもばかり。それでも、涼子さんがこどもたちと遊んでいると、お母さん同士が愉しそうに話をする。その光景に触れるうちに、会を開く動機が変わっていきます。

「この地域にとって、交流や憩いの場をつくることが必要で、そういう場をつくることで役に立てるのではないのだろうかと気づいたのです」

その気づきが、お店を開く動機も変えていきます。

「じぶんたちの好きなものを揃えて、かたちにすること」から、「本やコーヒーを媒介にひとが集まる場所になることで、本屋やコーヒー屋以上のだれかにとっての存在価値をつけられるのではないだろうか」、と。

そもそも、店づくりのステップとして挑戦した協力隊でしたが、やってみるうちに「まちづくりに関わることが愉しくなってきました」。

暮らしてわかった、この島のひとたちの温かさ、暮らしの味わい深さ。「なにもない」と口を揃える島民の方と、島のことを知りたい移住希望者に向けて、大島の魅力を伝えるフリーペーパー『ひもとく』も、在任中に創刊します。

移住者にインタビューを重ね、2号を制作。涼子さんの島への愛情、細やかで温かな描写で溢れています。

本屋、コーヒー屋以上の価値をもつ、島のキースポット。

協力隊の間、着々と開店の準備を進め、涼子さんの『こりおり文庫』と、大介さんの『こりおり珈琲』をあわせた『こりおり舎』は、2020年4月オープン。古民家を生かした本屋には、こどもから大人まで幅広いニーズを捉えた新刊、古本が約4000冊。同じ建物でも入口を別にして、大介さんの『こりおり珈琲』が並びます。

夏には、移住を希望するひとたちをメインに、『こりおり舎』で簡易宿泊もはじめる予定。

「じぶんたちが愉しく暮らすることで、その姿をみて移住者がやってくる。その循環をつくることが島のためになるのかもしれません。そういう働きかけをしていくことで、もっとじぶんたちの暮らし、島の暮らしが豊かになっていくといいですね」

魅力的で、おもしろい地域にはかならず、ひとが集まるキーになる場所がある。涼子さんがこれまで積み上げてきたこと、これから積み上げていくことに想いはかれば、『こりおり舎』がそういう場所になっている未来は、きっとそう遠くはありません。