俳優のスキルを活かした町おこし

東温市地域おこし協力隊 斉藤 かおるさん

 こんにちは!斉藤かおるです。

  東京では、主にシェイクスピア作品を中心に舞台での俳優業を30年弱続けていました。ですから、協力隊の平均年齢よりかなり上のオールドルーキーです(笑)。

 現在は、香川にある四国学院大学や、とうおん舞台芸術アカデミーでの「大人のための朗読」「東温で作るシェイクスピア」「中高年からの演劇教室」等で講師を務めています。

ちょっと変わった経歴

 僕が協力隊となった経緯は少し変わっています。

 さきほども触れましたが、愛媛に移住する以前は東京で俳優業をしていました。歳だけはいくらあがいてもとるものですから、無駄にキャリアと場数だけは多くなっていきました(笑)。そんな時妻と結婚し子供も授かり、狭いながらも新築のマンションを76歳までのローンで購入しました。

 妻の実家が香川で跡継ぎがおらず、僕は福島の男兄弟の末っ子だったので、ゆくゆくは四国で自分のキャリアを活かした仕事ができればなぁと思っていました。そこにタイミングよく「坊っちゃん劇場」での社員募集の情報を知りました。しかも俳優の!昔はサラリーマンになる事をあんなに嫌っていたのに妻子ができたとたん「安定した生活」に憧れていた僕は、何とか潜りこむ事に成功しました!

  早速買ったばかりのマンションを手放し、意気揚々と愛媛にやってきたのですが、坊っちゃん劇場での仕事は、何から何までわからない事ばかり。俳優の仕事より、各公演やイベントの段取りを一人で組まねばならず、自分がそれまでどれだけ楽な立ち位置で芝居をしていたのか思い知らされました。 そんな日々が続く中、入社して4年が過ぎた頃にコロナの波が襲ってきたのです。

第二のライフスタイル

 コロナによって公演やイベントが次々キャンセルになり、図らずも自分を見つめ直す時間が増えました。このまま会社にとどまっているならば生活は安定するが、果たしてそれは自分が本当に求めた生き方だろうかと、将来への不安と自身の夢との葛藤が続づいていたとき、妻から「しょうもないことで悩むな。なるようになる。」と叱咤(激励?)され、思い切って会社を退職しました。

 東温市地域おこし協力隊が活動する事務所は、たまたま当時僕が所属していた前の会社と同じビルにあったので、活動内容は何となく知っていました。そこで改めて調べてみると、東温市は「アートヴィレッジとうおん構想」を掲げるアートに特化したまちづくりを目指していました。そこには俳優以外の「講師」としての第二のライフスタイルが見えました。そこで思い切って申し込みをしたところ、これまたタイミングよく東温市地域おこし隊員となることができました。

 着任後は、四国学院大学の非常勤講師、とうおん舞台芸術アカデミーでの講師、シニア劇団の講師を受け持つほか、最近では自身の企画による市民キャストが中心となってつくる【伊予の国シェイクスピア】を立ち上げ、お陰様で大変多くの出演希望者とお客様に恵まれました。  

【伊予の国シェイクスピア】第一弾『間違いの喜劇』上演

 早いもので協力隊に着任して1年7カ月が過ぎようとしています。

 愛媛に定住し「講師」を生業にするには、今いる生徒さんの数では成りゆかず、一見成功したように思える【伊予の国シェイクスピア】も市の補助金がなければ自分の力だけで定期的には続けるのは難しい状態です。

 しかしこの1年7カ月の中で確信したこともあります。

 愛媛には潜在的に「自分を表現したい」「舞台に立ちたい」と思う人がまだまだ沢山いる。ただその方法がわからないだけ。つまり舞台での表現方法を的確に具体的に教えられる人材を求めているということです。

 演技経験などなくても誰もが俳優になれる資質を持っています。 そのためには「セリフ劇の金字塔」と言われる、とても素人には無理だと思えるシェイクスピア劇を上演し続けることがとても重要です。現にこの企画に出演した市民の方の多くが、無理ではないかと思ったでしょう。しかし実際は違いました。普段、畑を耕している人、子育てに追われている人、試験を控えている学生さんが、芝居の中ではお姫様になったり、娼婦になったり、修道女になったり。はたまた公爵になったり、占い師や商人になったり。

  この愛媛の土地で新しい文化の試みを発信し続けたいと思っています。